アルヒのシンギュラリティ
その街には、太陽と雲がある - 4

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「……僕はお父さんのこと、何も知らないんだ」 「あまり家で、自分の話などされないようになってしまいましたね」 「昔は違ったの?」  記憶の中にぼんやりと存在する、優しい笑顔を投げかける父の映像。あれはやはり、夢ではないのだろうか。 「お母様がご存命だった頃は、もっと明るい方でした。研究にも熱心で、サンクラウドをより人間とロボットが暮らしやすい場所にしようと、労を惜しまず働いていました。……しかし、お母様が事故で亡くなられてからは、まるで別人のようになってしまいました。あれだけ大切にしていた奥様を亡くしたのですから、無理もないことだと思いますが……」 「……お母さん」  アルヒはかじりかけのチェリーパイを置いた。アルヒには母であるメアリの記憶がほとんどなかったのだ。幼い頃に事故で亡くなったということは知っている。写真で見ていたせいだろうか。その腕に抱かれたぬくもりの感覚だけが、なんとなく体に残っている気がする。  アルヒが空中で画面をスクロールするように手を動かすと、新たに様々なニュースや広告が飛び込んできた。ロボット劇場のこけら落とし公演、ホログラム水族館のイベントの開催、ロボットのボディークリーニングの割引、有名シェフによる人間用レストランのオープン、などなどだ。 「人間用のレストラン? 初めて聞いた」  アルヒが気になって呟くと、ロビンも画面に視線を送る。 「ロボットが入れないレストランですね。昔は普通にあったんですけど、差別的だということで最近は数が減りました。『No Robots』と入り口に書かれているんですよ。新たにオープンとは珍しいですね」  アルヒが広告を眺めながら、チェリーパイの最後の一かけらを口に放り込む。そこで、画面の上部に新たなニュースが追加された。たった今更新されたニュースらしい。アルヒは画面を一番上まで戻した。 『セントポリオ地区で、大臣に魔の手』と書かれた記事だった。    昨日の夜、ブラー大臣が何者かに襲われたらしい。大臣は軽傷だが、犯人は走り去ったらしく、正体は不明ということだった。ロボットの可能性もある、という奇妙な記事だった。   「ねぇロビン、お父さんの急用って、今来たこのニュースと関係あるかな?」  ロビンはアルヒが食べ終わった皿を手に持ってから、画面に目をやった。 「そうかもしれません。物騒ですね……。坊ちゃんも外出時は気をつけないと」 「でもこのニュース変じゃない?」 「変ですねぇ。こんな幸せな街に、なんの不満があるんでしょうか。それに、あの大臣を襲うなんて」  ロビンは皿を持って、キッチンの奥へ歩いて行った。 「……違うよ。だって、ロボットは人間を傷つけられないはずなのに」

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