照らすのは。
無機質な灯り

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カチャンと扉の閉まる音で同居人の外出を知った。 アイツが出たってことは……九時くらいか、なんて呑気に考え体を起こす。 ふぁ、と大きく口を開けあくびを一つ漏らす。 「ねっむ……」 昨日帰って来たの朝だったもんな……。 枕元をゴソゴソと漁り、脱ぎ散らかされた服の中からスマホを発掘する。 まるで宝探しだよな……。 片付けねーとなぁ、俺の周りだけ汚すぎる。 ボーッとする頭でグダグダ、ウダウダとそんな事を考える。 サッサと顔認証を済ませトークアプリを開く。 すごいよな今の電子機器ってさ、 寝起きの怖ーい顔でも認証してくれるもんな。 俺なんて同居人の顔さえあんまり覚えてないのにさ。 最後に顔見たのっていつだったかな、、、。 『昨日はありがと。楽しかったよ。ゆかちゃんの喜がってる顔すっごい可愛かったよ』 思考と文面のちぐはぐさに思わずクスリと笑ってしまう。 一回セックスした人間なら覚えるの得意なんだけどな。男も女も。 ぐぅ、と大きく短く腹が鳴る。 その音に自分が空腹だったことを思い返しテーブルに目をやる。 いつものように盛り付けられることなくフライパンに入れられた野菜炒めが視界に入った。 毎朝毎朝、テーブルに置かれるこれによだれが出そうになる。 飽きないようにちょっとずつ具が変えてあるこれが、俺は何となく好きだった。 俺と同居人である颯人を繋ぐ唯一の存在。ソレが野菜炒めだ。 「いただきます」 小さく声に出し手を合わせて箸を持つ。 少し悩んでから俺はキャベツを箸でつまみ、口に運ぶ。 うん。うまい。 こくこくと頷きながら咀嚼をし、過去の事に思いを馳せる。 俺と颯人が出会ったのは高校の時だった。 クラスでちょっと浮いてるやつ。 ソレぐらいの印象しかなかった。 会えば話すし、多少のスキンシップも図る。 そう、至って普通の知り合い、そんな感じだった その以下でも以上でもない関係が終わったのは卒業式の日の事だった。 『しゃ、しん……!と、ら、ない?』 『別にいいけど。』 どもりながら頬を上気させた颯人が、俺を真っ直ぐに見据えながらそう告げる。 短く返事を返しスマホを出す。 颯人の隣に立ち腕を上げカシャリと一枚写真を撮る。 『送るから携帯貸して』 返事なんか聞かずにスマホを取り上げ自分のトークアプリのIDを打ち込む。 登録をタン、とタップしスマホの画面を颯人に向け笑いかける。 『これで俺ら今日から’友達‘な?』 『……!!あ、あの、結婚を前提に僕と付き合ってください!』 突拍子もない言葉に俺は圧倒されたのだろう。 相手は男だとか、ただの知り合いとか、結婚とか、そんな事見向きも出来なかった。 純粋に面白そうだと感じた。 だから俺は考えるよりも先に手が出てしまったのだろう。 気がつけば颯人の手をにぎっていた。 これが俺たちの関係が始まったきっかけだ。 「さっさとセックスして仲良くなる予定だったのになぁ……。」 はぁ、と短く息を吐き視界を落とせば、部屋を照らす無機質な灯で、埃によりキラキラと輝く独ぼっちなペアリングが映った。

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