照らすのは。
颯人の場合

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「安心してくれよ。ただの友達だからさ。」 そう安心した表情を浮かべる翔に思わず笑みが漏れる。 部屋を満たす嘔吐を催す様な濃い雄の匂いに、裏表が逆になっているシャツ。 少し虐めてやろうと思いニコニコしたまま前を通り過ぎる。 「窓、開けようか。あ、翔。それ、裏表逆だよ」 僕が何かい言う度に、動くたびにびくりと跳ねる肩に思わず口を押さえて笑ってしまう。 「ふ、ふ。久しぶりの再会がこんなのって嗤っちゃうよね」 「な、にがだよ。」 「べっつにー?翔くんはかわいいねー?」 そんな風にからかって茶化して頭を撫でくりまわす。 やめろよ、何て言いながら制止することのない彼に可愛いって気持ちで胸がいっぱいになる。 目を離せない、どっかに行っちゃいそうな危なげがどうしようもなく惹かれてしまう。 いつも違う匂いを纏いあやふやに笑う君が大切で大好きだ。なんて、本人にはきっと一生言えないけれど。 ずっと性愛の対象は女だった筈なのに、どうしても僕は彼がいいらしくて、彼を見ていると周りの景色が違って見える。 これが自分の初恋だと知ったのは、高校3年の体育祭の日だった。 その日までは何となく目を引く、興味のある男子生徒の一人だったのに、、、。 『なぁ、お前、一人?』 『え、あ、そ、そうだけど。』 『なら、これやるよ!当たったんだけどさ、一本しかないから。』 そう言って投げ渡されるペットボトルのスポーツ飲料。 『後半戦も頑張ろうぜ!』 そう笑った彼は太陽の光に照らされキラキラと輝いていた。 その輝きはいつもよりも何倍も何倍も輝いていて。 息が苦しくなり汗が噴き出す。 そして目を奪われたまま固まってしまう。 お礼を言わないと。 ちゃんと、目を見て、ありがとうって……。 そんな風にグダグダと考えているうちにそのまま彼の背中を見送る事になってしまった。 たったそれだけのことがどうしようもなく嬉しくて、透明だった自分に初めて色が着いたような、、、。 そんな人生を変える出来事と、初恋は急に訪れて、僕の中をぐちゃぐちゃにかき回した。 この感情に名前をつけるなら……きっと、そうこれが愛なんだと思う。

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