姥捨島挽歌
1012年、神父の葬式 1

「スミは、この花のことを知っているかい」  鶴木ツルキ先生が尋ねた。僕は植物係の当番で、墓地の花壇にパンジーの苗を植えていた。 「えっと、パンジーのこと?」  僕には、質問の意図が分からなかった。鶴木先生の顔を見ると、初級生の子が威張ってみせる時のように、へへん、と笑った。 「そ。実はそれ、パンジーじゃないのさ」 「ふうん……」  また始まった、と思った。  鶴木先生はいつも、冗談なのかそうでないのか、よく分からないことを言う。そうやって人をからかってばかりいるから、マキサ島のみんなに変人と言われていても、仕方がないんだ。 「その花の名前は、キュウシュウリコウ・サンシキスミレガタ・ラボンという」  ぺらぺらと謎の名前を口にする鶴木先生に、僕はぎょっとした。 「キューシュー……何なの、それ」  鶴木先生は、僕の反応に満足したように笑う。 「キュウシュウってのは、クスの古い呼び方。それで、キュウシュウリコウってのは、大昔のクスにあった会社の名前だな」  どうやら今回の鶴木先生は、得意のほら話をするつもりではないらしい。  僕達のクス国は、昔はもっと大きな国で、漢字で九つの州と書いていたのだという。中級生の頃、歴史の授業で習ったことだ。 「じゃあ、なんとかスミレっていうのは?」 「サンシキスミレってのは、本物のパンジーの古い名前だ。これはパンジーの形をしているから、サンシキスミレガタ・ラボンなのさ」  鶴木先生はそう言って、にこにこと笑っている。何がそんなに楽しいのだろう。 「それじゃあ、パンジーじゃないなら、これは何? ラボンっていうのは、何のことなの?」  僕は急に、墓地の植物達が不気味なものに思えた。手に抱えたパンジーの苗を見る。白くふやけた根がポットの形にはびこり、細かな網目となって土の塊を掴まえている。 「そいつは、パンジーの人形だよ」  鶴木先生はそう答えて、まるで笑う癖を忘れてしまったかのように、表情を消した。  僕は、その恐ろしく静かな瞳を見て、またこの夢を見たのか、と思った。  しばらくの間、目は覚めそうになかった。