5月の終わりごろだった。最近はだいぶ調子が良くて、このまま状態が良かったら、1週間後に一時外泊もオッケーだって、先生に言われた。 やった。半年ぶりに、病院から出られる! そう思うと、居ても立ってもいられなかった。朱里と亮二に連絡すると、ちょうど1週間後に、亮二の試合があるらしい。よし、それ見に行くぞ! 二人にそう宣言した。 ”朔が見に来るなら、ヘボなとこは見せられないな” 亮二からのメッセージが届く。 ”うん。下手なスイングだったら、ヤジ飛ばすよ” 柄にもないことを、僕は返した。 ”亮くん、全部ホームラン打つって言ってるから、大丈夫だよ!” 僕の無理を、朱里も感じたみたいだ。でもこれって、どっちを気にしているんだろうか。 どこか行きたいところはあるか? 亮二が聞いてきて、そこまでの体力はないぞ、と返す。その辺が、亮くんのデリカシーの無さよね、と朱里も続いて、多分あの頃なら、3人とも笑い合ってたんだろうなと、屋上のベンチから、夜空を見上げた。 きっとまた会えば、もう一度、顔を見て話せば、あの頃に戻れるかもしれない。でもそれを、あいつらも望んでいるだろうか。 奇麗な三日月の夜だった。朱里の胸元に、似合いそうに見えて、そっと三日月に手を伸ばしてみる。 ああ、そうだ。あいつ、もうすぐ誕生日だ。 伸ばした手で、三日月を壊さないように、大切にポケットへ忍ばせた。くさりを付けて、朱里に贈ろう。 そばに置いているスマホが、メッセージの到着を知らせた。 ”朔が遊びに来るの、楽しみに待ってるからね” 少しだけ考えて、結局無難に、ありがとう、と返した。 もう少し、気の利いた言葉でも返せたら良かったのだけど、朱里とは小さいころからずっと一緒で、きょうだいみたいで、飾った言葉なんて、お互いに使えなかった。 「くさりは、余計か・・・・・」 画面の文字に、僕は呟いていた。
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