部屋の明かりをつけると、6畳のワンルームが、浮かび上がった。白い壁に今着ているのとおんなじ、紺色のスーツがかかっていて、フローリングには、昨夜濡れた髪を拭いたタオルと、一緒に使ったドライヤーが転がっていた。 夜そのまま寝ちゃって、朝も急いで出たから、そのままだった。 片づけないと、という私の意志とは裏腹に、身体はカバンをドライヤーの横に置いて、ジャケットを手に持ったまま、ベットに倒れ込んでいた。 どれくらいの時間が経ったのか、肌寒さを感じて、目が覚めた。ああ、いつの間にか寝ちゃってた。最近どうもこんな調子だ。ぼんやりとした意識のまま、窓を見上げると、青白く染まっているのがわかった。 小さく軽やかにささやく、小鳥の鳴き声が、私が置かれた時間を知らせる。小鳥たちの声に誘われて、窓を開けた。少しひんやりとした空気が、私の頬をなでる。 6月末と言っても、日によって明け方は少し冷える。ベットの上に座り、両腕を抱きながら体を丸めて、アパートの2階の窓から、薄暗い朝空を見つめた。 どこまでも深くて、白くて、優しくて、まるであなたのようね。 瞬きをすると、その拍子に涙が一粒、太ももを濡らした。 スカートのポケットに入っていた、スマホを取り出す。待ち受け画面は、高校生の時に取った3人の写真。肩を組んでる朔と亮くん。二人の前ですわってる私。 この1年後に、朔は入院して、4年後に・・・ 朔に、謝りたいことがあるの。私の中に沸き上がった、黒い雲。ほんの少し生まれた、醜い感情。謝りたいことがあるから、すぐに、あなたに会いたい。 でも、今の私には、その勇気がない。写真の頃のあなたになら、あの頃の私なら、素直になれたのに。 明日はきっとって言ってるうちに、私は少しづつ、嘘つきに変わっていく。今はどんな言葉も、あなたに届かないかもしれない。そんな言い訳を続けている。 あふれた滴が、私の膝を濡らした。 窓から風が舞い込んできて、テーブルに置いていた、ひまわりの置物を揺らした。朔が好きだった花。男のくせに、花が好きだなんて、って言ったら、 ”でもひまわりって、でっかいし、強そうじゃん”だって。 「あんたが小さいだけじゃないの」 バカにしたけど、それから少しだけ私は、ひまわりが好きになった。朔はそのあと言ったのよ。 ”朱里はさ、ひまわりみたいな、明るい花や色が似あうと思うんだよな” だから、好きになった。ありがとう、朔。 私は、すっかり白く明けてきた、空の視線を遮るように、アパートの窓を閉めた。手の甲でまぶたを拭って、ぐちゃぐちゃになってベットに放置されていたジャケットを取り、ハンガーにかける。すっかりしわくちゃになってしまったけど、まあ、しばらくは出番が無くなるし、大丈夫か。 二晩の間、フローリングを寝床にしたドライヤーを洗面台に戻し、タオルを洗濯機に投げ入れた。 お化粧も落として、シャワーを浴びよう。ゼミの課題も仕上げよう。夕方からバイトにも行かなきゃ。それから、あっ、ご飯も食べてないや。お化粧落とす前に、コンビニ行こう。 カバンから家のカギを取り出し、スマホを持って家を出た。今日と明日と明後日と、数日分の予定で、無理やり頭の中をいっぱいにしながら。
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