あれから僕も、少しは成長できたんでしょうか。最初は先輩に添削してもらう予定だった手紙も、少しはまともになったと思ってくれていますか?焦りばかりが先立って、空回りしている気がします。 僕より先輩に近い人がこんなにいるのだと、模試の成績が世界の広さを突きつけて来るからでしょうか。今まで意識していませんでしたが、先輩はいま開けた世界で、僕の知らない顔で、僕の知らない人と話しているんですね。 髪色の明るい先輩は、きっと本当に素敵だと思います。でも、そんな表面的なことじゃなくて、もっとずっと深い場所で変わっていってしまうものが怖いんです。 「僕たちは、あと何通手紙を送り合えるのでしょうか」 いつか先輩が考えた台詞を口にしてみたら、どうしようもなく格好がつきませんでした。下手な道化のひとり芝居なんて、最悪の喜劇だ。 あの夜に、先輩との距離も少しは変わったと、そう思っていたのは僕だけなんでしょう。 あなたは、ずるい。僕の意思を聞いているふりをして、結局なんでも一人で決めて、肝心なことは何も言わない。きっとあと半年どころか、何億光年の夜を超えたって、あなたはいつも一年先の世界にいる。 僕が先輩の隣に立っている、いつかの未来が想像できないんです。あいまいな優しさより、どんなに傷ついても、確かな約束の方がずっといい。どうしてそれを、分かってくれないんですか。分からないふりを、しつづけているんですか。 僕はいま、あなたに名前を呼んでほしい。 いま、どうしようもなくあなたに会いたいのに。 ごめんなさい、これじゃ八つ当たりだ。でも、これが今の僕です。 草々 まだ名前を持たない僕 金澤奈海様 * 彼の手紙に残された、涙の痕をそっと指先でなぞる。 想いの欠片があふれこぼれて、熱い雫が頬を伝った。何度読み返しても、この景色の……未来のどこにも、きみがいないから。 本当は分かっていた。約束はきっと、果たされないまま死んでいくのだと。
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