巽壮太さま あけましておめでとうございます。お正月はゆっくりできましたか? 私はテレビをつけたらやっていた箱根駅伝を見て、ついつい応援してしまいました。実況の人が「今年は波乱の展開ですねー」なんて何度も言っていました。 こうして会ったこともない誰かを応援できるのも少し心に余裕ができたからなのかもしれません。ありがとう。君の提案、嬉しかった。 この間の手紙に「大丈夫じゃない」って書いてしまったこと、実は手紙を出した後に後悔していました。あんなこと書かなければ良かったと思いながらベッドに入って、モノクロの世界で文字の渦に飲み込まれてしまう夢を見たの。 知ってる?夢って色がついている人と、ついていない人がいるんだって。君はどっち?なんてね。私は昔はカラフルな夢を見ていたけど、最近はモノクロの夢ばかり見るの。 話が脱線してごめんなさい。脚本を一緒に書くことだけど、是非喜んで。それで、今日のお昼に今までに書いた脚本を公募に出したものの控えも含めて君に送るために整理していたの。君が読んでくれたら私の脚本に何が欠けているのか分かるかもしれないと思って。 でもね、やっぱりやめにしました。君に添削を頼みたいわけじゃないもの。だから、一から新しい物語を書こうと思いました。 そうしたら白昼夢とはまた違うんだけど、過去の作品を読み返して、一息ついたときにぼんやりと頭の中にある光景が見えたの。原稿用紙に向かっても何も思い浮かばなかったのにね。自分じゃない他の誰かが考えた話みたいだった。 ある夏の日に、裸足の二人が手を繋いで歩いているの。そして片方が「シェイクスピアは神でも鎖でもない」って言うだけのシーン。色はもちろんついていなくて、覚えているのはそれだけで、二人の顔も周りの風景も分からない。でも、この物語の続きを書きたいと思った。 ねえ、君はこの二人はどんな人たちだと思う? 平成三十一年 一月三日 金澤奈海
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