だって今の私は、物語を描くことを怖いと思っているのだから。 いつからだろう。書き始めることが怖い、書き進めることが怖い、書き終えることが怖いと感じるようになってしまった。 なんだかスランプを気取っているようで嫌なんだけど。でもやっぱり、スランプなのかもしれない。 高校、大学の頃は、なにも気にせず書いてたんだろうな。 誰の目も気にせず、自分の思うがまま書いてた。ちょっと下手くそだなって後から読み返して反省しても、成長していく過程でこういう部分も直っていくだろうって、深く考えたりせずに。 あとはみんなが、褒めてくれたしね。 面白いねとか、よくこんなセリフが思いつくね。とか。気にしないふりしてても、やっぱりとても嬉しかったし、私の原動力にもなってたんだろうな。 今思い出して、強く印象に残ってることがあって。 大学の頃に、公演を見に来てくれた文学部の教授に「脚本を書き切るだけでも凄いんだよ」って褒められたの。 よく分からないなってのが正直な感想だったんだけど。 今はよくわかる。 書き切るなんて簡単でしょ、問題はそこからじゃん。と意識高く構えていた当時の私は、いったいどこへ? 書くたびに思ってしまう。自分の書くものよりも、自分の毎日の人生の方が痛切で、ヒリヒリしていること。 大人になって、恋も愛も少しは知って(君が教えてくれて)、私はそのヒリヒリすべてをちゃんと覚えてる。今も温度を持っている。 その温度が、私の書きたい気持ちに火をつける。その温度が、書いている私を冷たくする。 きっと君や、君の漫画家のお友達は、こんな感覚は薄いのだろうなと思います。 読者がいるってこと。お金を貰って書くということ。人生のヒリヒリでさえも、より強いロープとなって、創作と人生をきつく結びつけてくれるでしょう。 だから今の君がすこしうらやましい。 ……心配しないでね。 書くことに調子が悪いだけで、あとは意外と好調(昨日ボーナスで、ちょっと良いソファーを買いました。この手紙はそこで書いてます)。 君の新作が読める日を、心から楽しみにしています。 寒くなってきたけど、身体に気を付けて。 平成二十九年十一月一日 金澤奈海
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