100回継ぐこと
[036:もり ひろ]
金澤奈海さま レターセットを褒められたので、調子に乗ってまた新しく買ってしまいました。今回のはどうでしょう。 奈海さんからの手紙で何度も何度も渋沢さんの名前が出てくると、とても複雑な気持ちになります。嫌だとか、彼の名前を出すなとか、そういう心の狭いことを言わなくなった僕は、少しだけ大人になれた気がしています。この五年で僕も成長したのです。 彼の助言に従って脚本を書くことで、奈海さんが精神的に良い方向に向かっているとなると、僕はきっと彼には勝てないのだろうなとも思ったりします。もちろん、まだ負けるつもりもありませんが。 お互いに違う時間を過ごしてきた中で、同じ時を過ごしたことが何度かありましたね。いつも高速バスで大阪まで来てもらっていて、僕はこれっぽちも会いに行ったことなんてなかったけれど。 あの時、一度だけ「奈海って呼んで」って囁かれたことがあったこと、覚えていますか? 奈海さんはきっと、そんなこと言っていないと否定するでしょうけれど。 あの時、初めて奈海さんと対等になれた気がした。いつだって奈海さんはお姉さん風を吹かしていて、付き合っているのに手が届かないような気がしていたので。時々、奈海さんとのこころの距離を感じることもありましたし。一緒にいるのに、奈海さんの中身はそこにいないようにも見えて。 だから、奈海って呼んで欲しいと言われた時、ようやく認めてもらえたような気持ちになりました。 結局、奈海って呼んだのはあの一度きりでしたね。奈海さんって呼びなさいって言うから。今の彼は奈海って呼んでいるのに。 次に会えることがあれば、その時はもう一度、奈海って呼ばせてください。
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