100回継ぐこと
[060:井上かほる]

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金澤奈海様  お元気ですか? お返事を書くのに、時間がかかってしまいました。 もう少し早く送りたかったのですが、どんな言葉を届けるべきなのか、考えこんでしまったのです。これは、僕が言うべきなのだろうか、と。  この手紙は、会社帰りに駅の近くのカフェで書いています。僕は徒歩通勤ですが、年末の人の流れに乗って、駅まで来てみました。運よく外が見える席が空いていたのですが、先輩が座っているソファーとは違って、こちらのイスは硬いです。  きょうは、仕事納めの日でした。 新しい支社なのでかんたんな掃除でいいだろう思っていたのですが、上司が張り切ってしまって……。きれいにはなりましたが、この数か月は会社と家の往復しかしていないので、筋肉痛になりそうです。運動不足ですね。  最近の僕は、家に帰ると食事もそこそこに、スケッチブックにストーリーのアイディアを書き出す日々を過ごしています。以前は、ふつうのA4のノートを使っていたのですが、文字の大きさやスペースにこだわらずに書けるので、僕には合っているようです。 高校の同級生の中山(名前、お伝えしていなかったですね)は、僕が先輩に手紙を書いた直後に上京しました。決断してから行動するまでがあっという間で、少年漫画の主人公のようでしたよ。今はメッセージアプリでアイディアを送りあったり、通話したりしながら、頑張っているところです。  ただ、ふたりで考えていると、展開に詰まってしまうことがあります。もちろん、出版社の方からもアドバイスはもらえるのですが、なにかが足りないと感じることがあって。  そんなときに思い出すのは、受験生時代に先輩が「視点を変えてみるのはどうか」と言ってくれたこと。当時は、先輩のとなりに行きたくて突っ走るだけだったけれど、今は理解できます。視点を変えるって大切ですね。ひとつの物事には、何通りでも見方がある。見上げる場所によって、空の見え方が違うように。  僕の話が長くなりました。  今年の文化祭はいかがでしたか? 先輩のことだから、きっと、大成功だったんだろうなと思っています。 平成二十九年 十二月二十九日 巽壮太

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