金澤奈海 様 なかなか筆を執ることができないまま、元号が変わってしまいました。 僕もこっそり「奈」の文字が入るのでは、と期待していましたが、誰も予想できなかったような結果になったと思います。 いつかの手紙で、先輩は「水平線の向こうが見えない」というようなことを書いていましたが、それは当然なことなんです。 幸せになれるかどうかなんて誰にもわからない。ただがむしゃらに、1日1日をもがきながら、どうすれば明日はより良く生きられるのか、考え続けるしかありません。 人生には攻略本なんかありません。結末は自分で切り開くものだし、答えを知っている人間は自分以外に存在しない。もちろん、渋沢さんだって正解を持っていないでしょう。 プロポーズという大事なトピックを追伸として書いたのは、先輩の中に迷いがあるからでしょうか。 幸せだと言い切る前に、自分の決断が合っているのかどうか、僕に確認したかったんじゃないですか。 そこが先輩の一番ずるいところです。この際ですから、僕もはっきり言わせてもらいます。 先輩にとって、今の僕はどんな姿に見えますか? 最初に出会った頃の、やせっぽっちで頼りない「後輩」のままですか? それとも、諦めの悪い「元彼」でしょうか。どちらにせよ、先輩にはきっと「現在進行形の僕」が見えていないんだと思います。 僕は今、先輩の中でどういう位置にいるんだろう。 もっと正直に打ち明けてほしい、心の底から甘えてほしい……なんて思うのは、わがままなことですか? 僕が渋沢さんの立場だったら、先輩を不安にさせてしまうプロポーズなんて絶対にしません。 「現在進行形の僕」なんて言いましたが、先輩への気持ちだけは、変わらずにずっとそのままです。 それでも、やっぱり渋沢さんには負けてしまうのでしょうか。 令和元年 5月4日 佐藤 巽
コメントはまだありません