100回継ぐこと
[076:大町はな]

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

金澤奈海 様  なかなか筆を執ることができないまま、元号が変わってしまいました。  僕もこっそり「奈」の文字が入るのでは、と期待していましたが、誰も予想できなかったような結果になったと思います。  いつかの手紙で、先輩は「水平線の向こうが見えない」というようなことを書いていましたが、それは当然なことなんです。  幸せになれるかどうかなんて誰にもわからない。ただがむしゃらに、1日1日をもがきながら、どうすれば明日はより良く生きられるのか、考え続けるしかありません。  人生には攻略本なんかありません。結末は自分で切り開くものだし、答えを知っている人間は自分以外に存在しない。もちろん、渋沢さんだって正解を持っていないでしょう。  プロポーズという大事なトピックを追伸として書いたのは、先輩の中に迷いがあるからでしょうか。  幸せだと言い切る前に、自分の決断が合っているのかどうか、僕に確認したかったんじゃないですか。  そこが先輩の一番ずるいところです。この際ですから、僕もはっきり言わせてもらいます。  先輩にとって、今の僕はどんな姿に見えますか?  最初に出会った頃の、やせっぽっちで頼りない「後輩」のままですか?  それとも、諦めの悪い「元彼」でしょうか。どちらにせよ、先輩にはきっと「現在進行形の僕」が見えていないんだと思います。    僕は今、先輩の中でどういう位置にいるんだろう。  もっと正直に打ち明けてほしい、心の底から甘えてほしい……なんて思うのは、わがままなことですか?    僕が渋沢さんの立場だったら、先輩を不安にさせてしまうプロポーズなんて絶対にしません。  「現在進行形の僕」なんて言いましたが、先輩への気持ちだけは、変わらずにずっとそのままです。  それでも、やっぱり渋沢さんには負けてしまうのでしょうか。 令和元年 5月4日 佐藤 巽

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません