100回継ぐこと
[007:圭琴子]

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「身体は生きたまま、心が死ぬの? 心が生きたまま、身体が死ぬの? 結婚するか、それとも死ぬか」  いつものように校舎裏を覗いたら、先輩が急に思い詰めた声で言うものだから、僕は本当にびっくりしました。思わず声をかけたら、シェイクスピアの『夏の夜の夢』の台詞だと笑われて、自分の無知に顔から火が出るような思いでした。  でも、『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』って言いますよね。それがどんな戯曲で、どういうシーンの台詞なのか、尋ねてみて良かったです。そのお陰で、先輩は僕を演劇部に誘ってくれたんだから。 「そうだ、きみ、演劇部に入らない? 背が高いから、舞台映えするよ」  そう言った先輩の『台詞』と、先のヒポリタの『台詞』、僕は一生忘れないと思います。それくらい、心が動いたから。  翌年の文化祭、クラスでは大道具係だったけど、演劇部恒例の『夏の夜の夢』ではコンプレックスだった痩せてノッポなところを買われて、シーシアスを任されました。先輩は念願のヒポリタ役だったから、張り切ってましたよね。ブロンドのウィッグに真っ白なドレスの先輩、凄く綺麗だった。  稽古の間、振り向いてくれないヒポリタに愛を囁き続けるシーシアスは、あの頃の僕そのままでした。ラストシーンで抱き合うとき、毎回ドキドキしたのを思い出します。先輩はどうだったのかな。懐かしいです。  先輩は受験生の僕を心配して、会うのは来年の春までお預けだって言うけれど、僕は今すぐにでも『島』に行って、先輩と話したいです。ほら、季節外れの海なんて、ロマンチックだと思いませんか?  草々。  佐藤 たつみ     *    *    *  いつも巽くんは、私に会いたがってくれていた。こうして離れてしまうなら、もっと会っておけば良かったと思う。

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