奈海さん。 　手紙では、おひさしぶりです。お元気ですか？ 　こちらは引越しが終わって、一段落ついたところです。 　荷物が少ないので、あっさりしていましたが、それでも結構疲れました。 　いま、神奈川県の鎌倉市です。職場近くに１Ｋを借りました。 　向こうもよかったですが、こちらも静かでいいですね。 　前回の手紙はいつだったかな。だいぶ経ってしまいました。 　荷解きをしていたら、奈海さんからの手紙がたくさん出てきて、読み返していたらこんな時間です（午前二時）。 　で、懐かしくなって、ついペンを執りました。 　キッチンに１人用のキャンプテーブルを出してこれを書いています。 　とても寒いですが、芋焼酎をお湯割りで飲んでいるので大丈夫です。 　いつもSNSでやりとりしているけど、たまには手紙もいいなと思って。 　ぼくらが手紙をいちばんやりとりしていたのって、ちょうど震災の手前までだったんだなと。 　当時、受験に失敗して、その直後に東日本大震災があって、何もかもがメチャクチャになったような暗い気持ちですごしていました。 　仙台にいた奈海さんが無事だったことが救いでしたが、あのときの記憶は塗りつぶされたみたいに、ほとんどありません。 　あれから５年たったんですね。 　この春から、志望していた業界で働くことができそうです。人工衛星のソフト開発です。ブラックという噂があるので、ほどほどにやりたいと思います。 　あと、いきなりですが、奈海さんはいまの彼氏と別れたほうがいいです！ 　それだけは、こうして文書でしっかり伝えておこうと思います！ 　返信をもらえるなら、この鎌倉の住所にください。 　ぼくも関東に越してきたから、デートしてください。 　手紙だと思い切っていろいろ書けますね。 　では、また。 　平成二十八年　三月二〇日 　巽壮太