金澤奈海様 先生、なんて呼び方はやめてください。今から僕たちは共同執筆者なんですから。 先輩の提案、とても面白いと思いました。答えはもちろんYESです。一緒に手紙で脚本を書いていきましょう。 なんだかワクワクしてます。考えてみれば、僕たちはこれまでずっと二人で物語を紡いできたのかもしれませんね。 先輩の不安、僕も分かりますなんて言ったら怒るでしょうか。でも乗っている船が大きくても小さくても、大海原を前にしたらその違いなんてささいなものなんじゃないかと思います。 物語を考えているとき、僕もいつだって不安だらけだし、自分の中のドロドロとした、黒くて醜い「何か」と向き合って物語を生み出すことは今でも怖いです。 でも僕には中山という相談相手もいるし、担当の編集さんだっています。 同じように、僕と先輩の二人ならきっと『大丈夫』です。 実はこの前の手紙のすぐ後に、たまたま出張で地元の近くまで行ったんです。その時に通りがかったので見てみたら、おじさんがやっている古書店、今もまだありました!朝の連続テレビ小説の曲がかかっていたから、おじさんも元気なんじゃないかって勝手に思ってます。仕事なのであちこち見て回ったわけじゃないですけど、久し振りに見る地元の風景は懐かしいままで、でも僕はあの頃の僕とはきっと同じじゃないと思うんです。 以前に先輩から貰った自分の手紙のコピーを読み返してみました。同じ人間が書いたとは思えないくらい、その時々で違うことが書かれていて、凄く不思議だったんです。けど何かの本で読んだのですが、ヒトの体の細胞は4年でほとんど新しいものと入れ替わるそうで、だから4年前の僕と、今の僕とでは細胞レベルで違っているってことなんです。 同じように右に行ったり左にいったり、一見するとぐるぐる同じ所で迷っているように見えても、実は違う場所に僕たちは辿り着いているんじゃないかな、なんて思ったりしています。 ……まあ、だから、今はこんなこと書いて、明日にはまた全く違う事を書いているかもしれないですけど。
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