100回継ぐこと
[078:武中ゆいか]

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

金澤奈海様 おめでとうって言って欲しかったなら、最初からそう書いてください。 結末が見えないと怖い、と言ったのは先輩です。僕に結末を教えず焦らしたくせに、本当は自分で結末を決めていたじゃないですか。 ずるいです。 僕はあなたとのこんな宙ぶらりんで曖昧な関係をやめたいんです。 先輩の結婚報告にも失恋にも動揺したくない。 僕はただ、あなたとの思い出を1番大事な形にしたいだけなんです。 僕たちにとって、いや僕にとってそれはこの脚本を形にすることなんです。 やっぱりナミさんはずるい。 中山との漫画の連載が上手くいっていません。 原因はたぶん僕なんです。 中山に「最近のお前の書く人物は気取っていてつまらない」と言われてしまいました。担当編集の人からも休載を打診されてしまって。 自分が原因で物語が止まってしまう、待ってくれているファンを失望させてしまうと考えると、怖くて怖くてたまらないんです。 「島」での日々を書いている時は次から次へと言葉が出てきたのに。 今はなにも浮かばないんです。 すみません。自分のことが上手くいっていないからって先輩に強く当たってしまいました。 だけど、先輩が結末をちゃんと知っていると思うのは本当です。 ねえ先輩。逃げないでください。 僕らはもう恋人ではないけれど、それでもあなたが苦しい時は一緒にもがくし、幸せな時は心から祝福したいんです。 側にはいられなくても。手紙で、言葉で僕は先輩の隣にいました。 だからどうか先輩の結末を聞かせてください。 佐藤巽 追伸:僕は観月さんと別れました。(これはただの見栄です) (投函しなかった手紙)

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません