100回継ぐこと
[056:中村英里]

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 先輩の書く脚本はセリフのひとつひとつにしっかり感情が込められていて、そこが言葉を大切にする先輩らしくていいなと思います。  去年の文化祭で先輩の劇を見た時、前半のコミカルな展開で大笑いして、夢を追い求めてタイムトリップし続けた主人公が挫折するシーンで悲しみ、最後のセリフ「この負のループを終わらせないと」で自分自身の夢は何だろうと考えさせられました。こんな風に心を揺さぶられるストーリーを、僕も考えたいと思っています。  ただ、言葉を大切にしているからこそだと思うのですが、先輩の劇には難しいセリフも多くて、ストーリーよりセリフを読み解く方に集中してしまうことがたまにあります。(僕の理解力不足かもしれませんが……)  漫画のストーリーを考えるのに煮詰まった時にハウツー本を読み漁ったんですが、いまいちピンとこなくて。本に書かれている“正解”の通りにやれば面白いものが書けるなら、全員プロになれますよね。でもそうじゃない。面白いって何だろう、プロとアマチュアの違いはどこにあるんだろう? って。そこで、プロデビューが決まった友人の漫画を自分なりに分析してみたんです。  人に見られることを意識すると、つい自分を飾ってしまいますよね。漫画のストーリーも同じで、感動させたい、かっこいいセリフを入れたいと思えば思うほど言葉を飾ってしまうんです。  でも彼が書く作品には、そういう無駄な飾りがない。登場人物たちは読者がいることなんて知らず、自分の意志で言葉を話しているように感じるんです。  たとえフィクションであってもそこに込められた感情が作り物ではないから、心を揺さぶられるんだと思います。プロとアマチュアの違いもそこにあるんだろうなと。  高校の頃、先輩が最後の公演後に「演劇のプロになる」と言ったのを覚えていますか。先輩はあの夢を、まだ追い続けていますか。  漫画のストーリーを作っていると話すと「いい歳して夢なんて見て」と言う人もいますが、僕は夢を見続けます。馬鹿にされても、笑われても。 平成二十九年 十月三日 巽壮太 追伸  もうすぐ文化祭ですね。今年も先輩が脚本を書くんでしょうか。  前みたいに迷惑をかけたくないので見に行くのはやめておきます。大阪の地から、成功を祈っています。  

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