ビルの向こうからぼうっと染み込んできた薄明が、切り取るような光となって、窓から容赦なく差し込んでくる。 赤く腫れた目には眩しすぎる。割れた食器も、空にしたワインボトルもまだ片付けていないのに。 目に見えるものをスラスラと言葉にできたあの頃とは違い、今ではちっとも上手くいかない。 君の顔をよく思い出せないのと同じように。 前に君は、私の深いところが変わってしまうのが怖いと言っていたね。一人きりの夜というものは、いつだって頭の中をぐるぐる回らせる。 立場が人を変えるのか。 経験が人を変えるのか。 空に憧れる芋虫みたいに、行きたいところ、なりたいものがあるから、変わるのか──。 私にとっての変化は、そのほとんどが前向きなものだった。 だから、かな。書けない私は、ちょっと耐えられそうにありません。 最近は、終わったあとにあれこれ考えることが増えた気がします。 二次選考で落ちた脚本を渋沢さんに見せたら「キミらしさが無いね」と言われました。一生懸命に試行錯誤したオシャレを鼻で笑われた気分だった。 おかげで初めてのコンクール挑戦は、二人で買ったお気に入りのお皿を叩き割り、自分のちっぽけさを改めて思い知らされるという結果となりました。 私が怒ると、言わなくてもいいことまで言っちゃうの、君はよく知ってるよね。彼のことを書く理由も知ってると思う……ううん、君は知るはずがない、が正しいかな。 伝えるつもりのない想いというのは、嫌でもあふれてくるんだ。 手紙や脚本とは違う。違うんだよ。 銘柄を変えて、違う匂いに抱かれて、これまで好んでいた表現が嫌になって、会いたくなった時に、その人はいない。 並木道を駆けていく子供たちのはしゃぎ声が、グラウンドから響く高校生たちの部活の声が、私の孤独(うろ)を駆り立てる。 私を変えてしまったのは、誰なんだろう。 私を変えてしまったものは、いったい、何なのだろう。 【投函しなかった手紙】
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