100回継ぐこと
[026:松下史加]

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 前略  打って返すような日付の返信ですみません。  先輩には呆れられそうですし、自分でも落ち着きがないと突っ込みを入れてますが、ちょっと興奮しているので。  願書、送りました!! 実は、専攻をどこにするか、受付締切(四日の金曜日、午後五時必着です……)のぎりぎりまで迷ってました。  自分の中でずっと、就職実績を優先すべきという考えと、単純に心引かれるところに行きたいという気持ちがせめぎ合っていて、もう、最後は鉛筆を転がして決めようかなって気になってた時もあるんです。  でも、先輩は安定した職業だから国語の先生を目指すわけじゃないよなって、例の本棚の前で考えたんです。 「言葉、言葉、言葉」だって聞きました。シェイクスピアからソーントン・ワイルダー、別役実まで、演劇部の頃はいろんな劇が話題に出ましたね。言葉も身体表現も舞台装置もそろって一つの劇になるわけですけど、先輩はいつも言葉にいちばん興味を持っていた。  言葉とからだは切り離せないものだからって、いつか言っていたのを憶えています。  そんなふうに、何か自分の深いところから出てくるものと、進路も結びつくのが自然だと最後は思いました。  それで、願書の「機械知能・航空工学科」にマルをつけて、速達で送りました。ここは、「はやぶさ」のプロジェクトにも関わったところなんです。  たとえ合格しても、航空宇宙コースへ進めるかはわからない。でも、大学で先輩に会った時、自信を持って、やりたいことをやりに来たと言いたい。  それから、前回の仕掛け、言われて初めてわかりました。相変わらずの勘の悪さで、自分をつねり上げたくなります。  僕も同じだって答えていいですか?  明日の朝、この手紙を投函したら、二十五日の本番に向けて全力投球します。  その間、手紙を書きたい気持ちは封印します。  当日が近づいたら、電話で会う時間と場所を相談させてください。  先輩の元気な顔を想像して、がんばります。  早々  平成二十三年 二月三日  巽壮太

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません