100回継ぐこと
[044:竹邑貴司]

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 先輩が苦しみ悩み抜いて生み出した脚本を読んでみたいし、その物語を演劇部の生徒さんたちが、舞台上でどんなふうに表現するのかをどうしてもこの目で確かめたいんです。  そろそろ、高校生のときに止まってしまったままの時計の針を進める頃合いだと思うんです。どうしたって、演劇に携わっている先輩の姿を想像するときは、未だに制服姿のままなんですから……。  なので、決めました。  明日、お芝居を観に行きます。  数日ぶりの酒に酔って、思いつきで適当なことを書いているわけではありません。  明日、十一月二日。先輩が勤めている高校で文化祭があり、演劇部の発表が行われることは、その高校のOBである僕の上司から聞いて知っていました。そして、その上司の計らいで特別に観劇させてもらえることになっているのです(手紙の消印が同じ郵便局だったということは、以前にもお伝えしていましたよね? ある意味、僕たちご近所さんなんですよ)。  もちろん今はまだ直接はお会い出来ませんし、ただ演劇を観るだけにするつもりです。それでも、先輩が手塩に掛けた作品に触れることで、僕がどうして「今はまだ会うべきじゃない」と考えてしまうのか、その原因の一端が掴めるのではないか、止まったままの時計の針が再び動き出すんじゃないか、そう思っています。  最初に書いた、何度も書き直していて返事が遅くなったというのは決して嘘ではありません。ですが、正直に告白すると、このことを事前にお伝えするべきではない、と僕なりに結論を出したためでもあるんです。きっとこの手紙を読んで、先輩は怒っていらっしゃることでしょう。ごめんなさい。どうか僕の自分本位で卑怯な行動、我儘をお許し下さい。  明日、観客席の隅から、大人になった奈海先輩の分身と向き合うことに震えるほどの緊張をしながら――。    平成二十八年十一月一日  巽壮太

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