金澤奈海様 お返事ができておらず、すみません。 年末は例年以上に忙しく、ようやく仕事納めをして一息ついたところです。 先輩はやっぱりずるいです。 いや、こうなることはどこかでわかっていた自分もいるのですが、いざ手紙の文字を見ると落ち着かないものです。 大丈夫、大丈夫、大丈夫。 何回見ても、この文字は大丈夫じゃなさそう。 いつもと変わらず綺麗なのに、美しいのに、何となく憂いが含まれているよう。 先輩の顔が朧げながら浮かんできます。 「来年の事を言うと鬼が笑う」ということわざがありますが、僕は来年なんかじゃなくて数時間後のことすらわかりません。 本当は今すぐ飛び出して会いに行きたい。 でも、そんなことできないから、今こうして手紙を書いています。書くしかないのです。 今更ながら自分の性格を恨みます。 もし、僕が漫画の主人公なら、ドラマの主人公なら、こんな悠長な展開にならず済んだでしょう。 感動的なクライマックスに向けて、エンディングが流れ始めているでしょう。 手紙なんて書いてないで、走り出しているに違いありません。 でも、僕はこうして椅子の上に座って、手紙を書いています。 きっと、このまま手紙を郵便ポストに出して、あなたからの手紙を受け取るでしょう。 ごめんなさい。 謝るのもおかしいけど、ごめんなさい。 こうなることを期待しておきながら、僕は何をしているのでしょうか? 素直に先輩のことだけを考えればいいのに、要らぬ心配が、後ろめたさが、思い過ごしが、目まぐるしく邪魔をします。 とはいえ、こんなにも言葉が出てくるくらいは冷静です。 僕はこういう人間なのです。 人から必要とされたとき、必要以上に期待されたとき、逃げ出したくなる自分がいます。 あれ、僕も何を書けば良いのかわからなくなってしまいました。 先輩はやっぱりずるい。
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