100回継ぐこと
[100:サクラハルカ]

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金澤奈海様  遅くなりましたが、脚本コンクール佳作の受賞おめでとうございます。受賞を知って直ぐに手紙を書こうとしたのですが、何枚も失敗しました。おめでとう、の5文字に気合を入れすぎました。そうこうしているうちに、先輩から手紙が届いて。海の見える書斎、先輩にとっての新しい島みたいですね。そこで新たな脚本に挑戦されるとのこと、応援しています。  僕は(多分ご存知だと思いますが)連載が打ち切りになりました。描かなければと追い詰められることから解放されて、しばらくぼんやりと過ごしたくなり、地元に帰ってあの書斎に住みつきました。たくさんの本の中で、僕はとても小さき者でした。その事実を受け入れ、書斎にうずたかく積もる創作の一欠片になろうとしました。すると、不思議と新たに物語が浮かぶようになってきたんです。  学生時代に先輩とやりとりした手紙も読み返しました。手紙を収めた木製のレターケースは濃く良い色になっていて、引き出しを開ける時に少し緊張しました。手にとった一通一通、とても懐かしかったです。気がつけば全部読んでいました。文通を続けるきっかけって、先輩の手紙だったんですね。  雑誌の受賞記事にあった『砂浜にある小高い岩場に腰かけた女性が手紙の束を読み返している』  この部分を目にした時、先輩も読み返したんだ、と思いました。あの頃の僕たちはどうでしたか。  演劇に打ち込んでいた先輩。はやぶさに夢中だった僕。  そういえば2020年、はやぶさ2が新たなミッションに飛び立ちましたよね。 「夢を叶えて、また島で会おう」という約束からは12年です。  先輩の夢は叶いました。だから島で、と言いたいところですが、僕から先輩に新たなミッションの提案があるんです。  先輩、これからも佐藤巽と文通をしてください。  先輩の新しい島と僕の島を繋ぐ、文字だけのやりとり。僕たちだけのスタイル。 あの島にて 令和4年3月11日 佐藤巽

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