100回継ぐこと
[094:chirping_taira]

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 なっちゃん、なっちゃん先輩  だめだ、やっぱり電車の中だと字がゆれますね。僕は今、島に向かう電車の中で、この手紙を書いています。  本当はあの頃、こっそり、なっちゃん先輩と僕は呼んでいました。  ナミ、ナミ、なっちゃん、先輩を(停車中だと漢字がスムーズに書けます)自由に呼ぶ先輩たちがうらやましくて。でもナミ、と呼び捨てにはできなくて、なっちゃん……ちゃんづけも怖くて、なっちゃん先ぱい……あれこれ考えて。「なっちゃん」「なっちゃん先輩」、お芝居のセリフみたいに家で練習したのに、結局一度もそう呼びかけることはありませんでした。  高校時代の僕の口ぐせ、覚えていますか? 何かあればすぐに「違うんですよ、でも」「だって」言い訳ばかりしてました。  先輩は「ちゃうねんって、そればっかしつこい」「あほちゃう」と、遠りょのないツッコミを食らわせてきました。たまにめっちゃ真面目な顔で「なんでやねん」、冷たく言われたときは、ちょっと傷ついたりもしました。  前に手書きの言葉は海みたいって書いてましたが、ほんとにそうですね。僕のぶれた字は、あっちこっちに散ってしまって、波打ちぎわにいるみたいです。  今日会ったら、僕らはどうやって喋るのでしょうか。  あの頃みたいに気やすく「あほやな」って言ってくれるのかな。 「あほって言うほうが、あほやねん」 つきあった頃。僕が、言い返せるようになるまでどれだけ頑張ったか、知っていますか。  手紙では僕ら、ちょっと背伸びして、気取った言葉ばかり使っていましたね。 それはきっと、固い机の前で書いていたからだと、今ならわかります。車窓から(今、何かを待って少し長めの停車をしています)空が見えて、ほんのり潮の香りが漂ってくる、ここでなら、僕はいつもより素直に伝えられるような気がしています。

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