100回継ぐこと
[017:景綱]

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 今日の僕はどうやら感傷的になり過ぎているようです。  それに、慣れない言葉を使ったせいで疲弊しています。  そんな僕は、先輩のことばかり考えているせいか、あの夏の夜のことを思い出してしまいました。  まさに『夏の夜の夢』の本。  父のコレクションの中にみつけた本。『なんでここに』なんて話していましたよね。そのあと、先輩と僕のふたりだけの劇をしましたよね。  登場人物が多過ぎ、なんて先輩が笑わせるから、僕が台詞を噛んでしまって。  向き合ったときの距離が思ったよりも近くて、一瞬の間が。  僕はいったい、何を思い出しているんだろう。けど、あの間は、演技に役立ちそうじゃないですか。こんなこと言ったら、先輩に怒られそうですね。わかっています。今は、受験勉強第一です。  そこでひとつお願いです。僕が先輩と同じ桜を見られるようおまじないをかけてください。  絶対に、先輩の隣に行きます。  1+1=2でなきゃダメなんです。  僕は、本番に強いんです。何が何でも、合格を掴み取ります。  小惑星探査機はやぶさだって何億光年も先にあるイトカワから戻るという快挙を遂げたじゃないですか。きっと、僕にだって奇跡が起きて快挙を遂げられるはず。  また、はやぶさで例えるのって思わないでください。  とにかく頑張ります。  あっ、そうそう。本の話をしていたら、変なおじさんのことも思い出してしまいました。  あのおじさん、古書店の店主だったんです。気分転換にとたまたま入った店にいて驚きました。店内では、場違いと思えるピアノとヴァイオリンの曲が流れていたんです。きっと、あれは、朝の連続テレビ小説の曲じゃないかと。  余計な話をしてしまいました。すみません。  僕は必ず、入試という魔物に勝利してみせます。見守っていてください。 草々  追伸  まだ先の話ですが、合格したら本当に下の名前で呼んでください。先輩が手紙に書いた言葉、覚えていますよね? 平成二十二年十一月二十日  佐藤巽 改め 巽壮太

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