前略 巽君へ 手紙を見つけて、びっくりしました。 そして、君が酔って手紙を書いてきたことは、すぐに分かりました。そうじゃないと、君はあんなこと言えないもの。 だから私も、飲んで書いてみようと思って、帰りに赤ワインを買いました。君も知っている通り、ふだん家で飲むことは無いんだけど。グラスに注いで、チーズも食べながら、少しずつ飲んでいます。 まず、希望の職種に就けて、本当によかった。君が関西の大学を出て、新卒でベンチャー企業に就職して、その会社が半年で潰れたと聞いたときは、心配しました。友達の会社でバイトしながら就職活動をしていると聞いていたけれど、無事内定が出たんだね。 社会人2年目とはいえ、ほとんど新卒のようなものだから、「ほどほどに」なんて言わず、気合いを入れて頑張ってほしいです。もちろん、無理はしないでほしいけど。 そして、鎌倉に越してきたんだね。同じ県に住むのは、高校以来だね。 彼氏のことは、なぜ別れたほういいって言うのかな。そういうことは自分で決めるし、もちろん彼がいるうちは君とデートもしません。 だけど、本当に弱ったとき。困ったことがあって、近くに頼れる人がいなかったら。その時は、遠慮なく連絡してください。高校の先輩として、元彼女として、最善を尽くしたいと思います。 でもね。私も酔った勢いで書いちゃうけど……。 君だけだったよ。 君といられるなら自分の夢とか生活がどうでもよくなったのは君だけだったし、バスの中で口づけをしたのも君だけ、あんな恥ずかしいことを自分からしたのも、君だけだった。 そして、吐くくらい何日間も泣いて過ごしたことも、食べられなくなってやせたのも、授業に出られなくなったのも、死にたくなったのも、君だけ。 明日になったら出す気が失せると思うから、もう封を閉じるね。 寒かったら、お酒ばかり飲まずに、生姜湯を飲んで、どてらでも羽織ってね。 今の私は、身体は生きたまま、心が死んでいます。 草々 平成二十八年三月二十九日 金澤奈海
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