100回継ぐこと
[055:春野泉]

作品に栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

 僕が前に手紙で「夢が出来た」と書いたこと覚えていますか?  先輩が顧問をつとめる演劇部の公演を見た後、僕の夢はなんだっただろうかとしばらく考えていました。  思いを辿らせて着いたのは、どの企業に入りたいかを考えた就職活動の時でもなく、将来何になりたいかを考えた大学受験の時でもなく、先輩にとって高校最後の演劇部の公演が終わった日の帰り道。  僕たちは、いつもの海辺の道を歩いていました。 「いつか、ここから見える景色を舞台に脚本を書きたいな」  先輩は立ち止まって言いました。  先輩の視線の先には、潮が満ちてもうすぐ消えてしまいそうな小高い岩場、空との境界線が夕日で滲む仄暗い海。  本当は僕もあの時、同じことを考えていました。  先輩みたいに文章を書く能力も行動力もなくて口には出せなかったけれど、いつかここを舞台にした物語を見てみたい、と。  僕はその時のことを思い出して、「こんな物語はどうだろうか」と思いつくままにノートに書き込みました。脚本とも言えない、落書きみたいなものです。  友人と夜のファミレスで漫画のストーリーを考えていた時にそのノートをみせたことがあったのですが、その友人が出版社の担当者にその話を何気なくしたら、「面白そうだからストーリーが書けたら見せてよ」と言ってくれたそうです。  最近の僕は仕事から帰ってくると、ストーリーをコツコツと考えています。  舞台は、僕たちが生まれ育った街の海辺。  夏には海水浴で人が賑わうけれど、普段は人気のない静かな海。  満月の綺麗なある夜、その街の男子高校生は潮が満ちて海に沈んだ「島」の上に佇む白く光る人影を見つけるんです。  次の日も気になって同じ場所に行くと、そこには昨日の人影はない。  諦めて帰ろうと踵を返すと、同い年くらいの女の子が同じように海を見つめている。  二人はそこで出逢い、昨日見た白い影の正体を探していくんです。  面白くなりそうですかね?  先輩の書いた脚本も読んでみたいです。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません