100回継ぐこと
[054:あみハン]

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金澤奈海様  お元気ですか? 久しぶりに手紙を書きます。  奈海先輩に最後に手紙を書いたのは確か昨年の12月頃だったと思います。ずっと返事を書かずに失礼なことをしてすみません。最近外を歩いているとキンモクセイのいい香りがしてきて、もうこんな季節なんだと気付かされました。時の流れは本当にあっという間です。  今年の春に仕事で新しい支社ができることが決まり、その立ち上げのメンバーの一人として僕が選ばれ、日々仕事に奮闘しています。新支社に通うため、以前住んでいたアパートを出て、職場から近い所に引っ越しました。いまの会社に就職してからこのような責任ある仕事を任せられたのは初めてで、しばらくは新しい仕事に慣れるまで気が張っていました。でも最近は少し落ち着きました。  奈海先輩は演劇部で楽しく活動出来ていますか?  しばらく文通が無かった間、僕は仕事に明け暮れる日々でしたが、時々演劇部の生徒達と練習に励む先輩の姿を思い浮かべていました。きっと僕からの音沙汰が無いことに愛想を尽かしてしまったかもしれないですね。もしかしたらもう僕のことを忘れてしまったかもしれない。それも仕方のないことだと思います。気持ちが少し落ち着いてきたので、久しぶりに筆を取りましたが、この手紙を受け取る先輩の顔を想像すると緊張してしまいます。  さて、このお話を伝えたくて、筆をとりました。  先日高校の同級生が漫画雑誌の新人賞に応募して、奨励賞を受賞したという知らせを受けました。彼に、ストーリーラインを考えるのを手伝って欲しいと言われ、何日か付き合ったのです。  早速その雑誌を買って読んでみたらびっくりしました。  彼と僕がファミレスで夜遅くまで冗談混じりで面白おかしく考えたストーリーや人物がよそゆきに変身して、気が付けば夢中になって読んでいました。  彼はバイトをしながら漫画家になることを目指していましたが、受賞後すぐに出版社から漫画の依頼が来たそうで、これを機に上京すると言っていました。夢を叶えるってすごいことです。    僕も彼に負けずに頑張らなきゃと思います。

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