(投函しなかった手紙) 巽壮太君へ 不意打ちの再会のあとで、十一月一日付の手紙が届きました。 次は白紙が一枚だけ。文通をやめたいのかと思ったよ。それならそれでいい、と思っていたらまた手紙が来たので、正直わからなくなりました。 時間は優しくない。何もしてくれない。その通りだよね。少なくとも私と君の関係については。冷蔵庫に入っても冷え冷えするだけで、巻き戻せない。 でも、君と恋をした日々に、私は感謝しています。 震災のショックから立ち直れたのは、君のおかげ。 努力も未来も信じられなくなって、演劇サークルをやめてしまった頃。スーツケースを抱えて君の所にころがりこんで、泣いたよね。今思えば恥ずかしいことをしたけど、君がきつく抱きしめてくれたおかげでもちこたえられたのは確かです。 もう大学も辞めてずっとここにいたい、と口走った私に、君は、「あの約束はどうするんですか」と言いましたね。 高3の秋、演劇地区大会の帰り道だった。あれからずっと大切にしてくれていたんだなと、うれしくて、でも君にそんなことを言わせたのが悔しかった。 あの頃も、今も、君の理想の先輩でいなくてはならないという呪縛から逃れられないままです。 十一月の手紙にあった「別れた理由」。犬か猫かで確かに喧嘩したね。むしろ懐かしい思い出だよ。 でも本当は…… お父さんのいるアメリカの大学へ留学する、と君から連絡が来たとき、電話ではそっけない返事しかできなかった。あの一年間、君は平気そうだったけど、私はインターネット電話の映像と声だけでは、君がそこにいるという実感がわかなかった。 さびしいと素直に言えなかった私もいけなかったけど、いつの間にか、私たちは物理的な距離以上に離れてしまったんだと思う。 あの頃、渋沢さんが和歌山から会いに来てくれて、やっと演劇サークルに戻れたことは…… やっぱりこの話はやめておきます。 とにかく、互いにとって毒になるような文通なら、もう──
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