先輩。 僕も迷子なのかもしれません。 夢が「夢」だった頃が、時々懐かしくなります。現実味を帯びてくるほど、汚いことも見えてくる。目を開いて見る夢は、目を閉じて見る夢とは違って、苦しみとの対峙でもあるのでしょうね。 欲しいものに手を伸ばしてきたはずなのに、僕が本当に欲しかったものは、今の環境ではないような気もするんです。中山には言えない、ここだけの秘密ですが。 本当に欲しいものを見極める眼力と、それを抱きしめていられる腕力が、僕には足りないのかもしれない。そのためにはまだ沢山、筋トレをしないといけないのかもしれません。 先輩。 もうひとつ伝えたいことがあります。 本当に大丈夫じゃなかったら、ちゃんと「大丈夫じゃない」と言ってください。 先輩が大丈夫だと言うとき、大丈夫だったことなんてなかったから。 「あなたを守る騎士になりたい」なんて、漫画の主人公のような格好つけたことを言える年ではなくなってしまったけれど、ずっとずっと、先輩のことを守れる人間でありたいと思っています。でもまだ、頼りないですね。 先輩、(修正液の跡) 迷子なら、一緒に迷いませんか。時々お互いの居場所を確認しながら迷子になっていたら、いつかまた出会える気がするんです。 その時見える景色が同じだといいな、と思っています。 結局、少し格好つけてしまいました。 僕の言葉はいつも、格好つけようとするばかりですね。だから考える台詞にも、うまく感情が入らない。中山にもよく言われます。お前はストーリーを考えるのは得意なのに、台詞はいつも薄っぺらい、純度が足りない、と。 このまま書き続けたら、弱音になってしまいそうです。秋の夜長といいますが、夜が長すぎるのも考えものですね。 平成三十年 十月十五日 巽壮太 ***** (以下、ゴミ箱の中の書き損じ便箋) 先輩、 「君となら私は書ける」と、いつかの手紙に書いていたことを覚えていますか。 よければ僕と一緒に、一つの作品を作りませんか。
コメントはまだありません