100回継ぐこと
[005:塵 薫]

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『前略  ナミ先輩、お元気ですか?    先輩から厳しく添削されてしまって、ちょっと緊張しています。それでも先輩にお手紙を書くのは楽しいし、便箋を前にこうしてペンを取ると勝手に伝えたいことが浮かんできます。今度は花丸が貰えるようなお手紙にしたいと鼻息荒く決意を固めているところです。    さて。先輩にロマンチストになれと言われたから、というわけでもないのですが、僕はいま、十日後に迫った惑星探査機「はやぶさ」の帰還が気になっています。  はやぶさは、一億二千万キロなんて、とんでもなく遠いところにある小惑星イトカワへ一人で行ってサンプルを持ち帰ろうとしています。  相次ぐトラブルで宇宙で迷子になってしまったのに、見つけてもらって帰ってくるなんて凄いと思いませんか? 宇宙でですよ! 理系って理屈ばかりでロマンなんてぜんぜん無いのかと思ってましたが、数学の成績だけは悪くないし、工学部を志望するのも悪くないかなって思えてきています。  迷子と言うと、やっぱり思い出すのは去年の夏のビーチ。五才のアカリちゃんでしたっけ。「島」で甲羅干ししながら、のんびり海を眺めていた時でしたよね。「ママー、ママー」ってベソかいてたアカリちゃんに先輩が優しく声をかけて。一緒に探してあげるって言って海の家まで三人で手をつないで歩きましたよね。ママとはぐれて不安なアカリちゃんを励まそうとキラキラ星を歌いながら。あれ、楽しかったなぁ。でも、僕が音を外してると言って、先輩とアカリちゃん、すっごく笑ってましたっけ。今だから言いますけど、あれはちょっと傷つきました。  前回の手紙以来、毎日ジョギングと腕立てと腹筋を続けています。ジョギングは早起きした時は朝走ることもありますが、たいていは夕方です。やり始めて気がついたのですが、結構ジョギングしてる人いるんですね。中にはよく会う、ちょっと変わった人もいます』

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