100回継ぐこと
[009:水瀬そらまめ]
先輩へ 先輩、りんごジャムどうでしたか?美味しかったらいいんですけど。今回は少し砂糖を控えめにしてみました。先輩が以前体重のことを気にしていたからです。 これくらいの甘さならきっと沢山食べれるかなと思いました。 って言っても、僕からしたら、ちっとも太っていないから気にしなくてもいいと言う気がしますけど。僕のことより、先輩の方が心配です。腕も足も華奢すぎて、先輩のほうこそもっと太ったほうがいいんじゃないかな?なんて思いますけど。 それと、あっさりスルーされているので、自分から打ち明けますが、僕の名前、気づいてました?気づいてますよね? 佐藤 巽って書いたんですけど。実はこれは先輩へのささやかな抵抗なんです。 これなら名前を読んでもらっているような気がしたので。これからはこの名前で通します! あ、そうそう、佐藤っていうのは演劇部の現部長の苗字から使わせてもらいました。 コレクションのことですが、実はあれは誰にも触らせたくないんです。 父と僕は、本音を言うとそんなにざっくばらんに話せる仲ではありません。受験のことも相談したことはないし。でも唯一の会話をするのは昔からあの本棚の前でした。あそこは我が家の聖域といったところでしょうか。母を早くに亡くした僕たちは、寂しくなったり辛くなるとあの部屋に入って、何を話すわけでもなく過ごしたものです。たまに母の愛読していたモンテ・クリスト伯を手にとって、しんみりしたりね。 あの部屋に誰かを入れたのは先輩が初めてなんです。あの時、なんとなくですけど、母に会ってもらったような気がしました。こんなこと言うと「重い」と思われたら嫌ですけど、僕にとって先輩は特別な人ですから。 佐藤 巽
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