100回継ぐこと
[090:田辺ふみ]

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渋沢奈海 様  あけましておめでとうございます。  先輩は新年、初詣には行かれましたか? 何か願い事はされましたでしょうか?  僕は昨日、行ってきました。思ったより人が多くてびっくりしました。一体、何を願っているのでしょうか?  僕が願った事は正直になることです。  って、これも嘘です。  僕の願い事は置いておいて、前回の手紙の続きです。言い出した僕の方から、嘘を告白しないといけませんよね。  でも、先輩はもう気付いているんじゃないですか? 「勇気をくれる漫画を描き続けて欲しい」  手紙にそう書いてくれたことがありましたよね。  気付いていたから、あの言葉を僕にくれたのではないのでしょうか。  そうです。  「鎌倉奇譚」の漫画を描いているのは僕です。  アニメになったとき、クレジットの原作者には僕の名前はありません。キャラクターデザイン担当:佐藤巽と流れるでしょう。  最初の頃は中山との共同制作でした。  それがストーリーがうまく書けなくなって、担当さんからも面白くないから作画に専念してほしいと言われたのです。  僕には先輩と二人で脚本を作るような才能はありません。できもしない約束をして、本当にごめんなさい。  絵に興味を持ったのは演劇部の大道具で背景を描いたのがきっかけでした。だから、今の僕があるのはやっぱり、先輩のおかげです。そのくせ、漫画を描くようになっても黙っていたのは恥ずかしかったからです。それに同じことに夢中になっていないと、先輩の横にはいられないと思っていました。  本当に僕は子供でした。  今さら、大人になって告白しようと思ったわけは、そうしないと、僕の夢は叶わないからです。  聞いてください。  僕の夢は先輩の書いた原作で漫画を描くことです。  そして、初詣で願った事は先輩が「うん」と頷いてくれることです。 令和三年一月二日  巽壮太

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