世界で三番目の男
終章 ②『たとえば、彼岸花に焼かれても』

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「深地、それは天罰だ。俺の占いに頼らなかったことへのな……」 「また拗ねてるの……」  哲太は腕を組んで立腹した様子だった。あの橋での会話を美来から聞いたらしかった。通信アプリで連絡した時から、深地の無事を喜んでくれつつ、変なスタンプを大量に送ってきたのはこのせいか。  深地は火事の話も聞いてもらいたくて、哲太の店に足を運んでいた。店の裏手にある哲太の部屋は物が散らかっていて、深地は踏まないように気を配りながら、丸い食卓についた。  今日は哲太も久々の完全オフの日だったので、占い師っぽくないパーカー姿で加熱式タバコを吸っていた。 「哲太の占いのおかげで、僕は行動できたんだよ。あの占いの結果だったから」  深地が思いの限り感謝を伝えると、哲太は中指で眉間の皺を撫でた。 「占いの結果は自信を持って提供するものだ。ありがとな。ただ、オレはプロだ。そして占いはビジネスなんだよ」  深地はうわ、という顔してしまった。哲太はお金のジェスチャーをして神妙に頷いている。  奥から美来が顔を出した。 「よ、深地、大変だったね」 「うん、ありがとう。心配かけちゃってたらごめんね」 「生きてて儲じゃん。だけど、死んだ方が神さまに近くなれたんじゃない? あはは」  笑えないことを言いながら、美来は爆笑して手をひらひらとさせている。深地は苦笑いした。そんなことで神さまになんかになりたく無いと思った。ふと、深地は思い出す。 「そういえば、親友の結婚式どうだったの? フォトフレーム、気に入ってくれたかな?」  結局、騒動が起きてしまったので、有の直接の指導は受けられなかったが、電話やメールでアドバイスを貰って、深地が一人で制作した。深地の自信作だった。どきどきしながら美来の返答を待つ。 「あれねー! めっちゃ喜んでた! アイツとは親友だけど、あたしが選ぶもんにすぐケチつけるからさ。でもそんな女がベタ褒めしてたよ。深地マジ天才。ホントにありがとう。次も頼むから、任されてよね」  依頼者の美来にまでこんなに喜んで貰えたのなら本望だった。 「それで、彼女とはまだ会ってないんだ?」  哲太が話題を変えた。 「うん」  深地は溜まった寂しさを流すように胸をさする。この先が不安だった。もう会えないのかもしれないと思ったことは数え足りない。これからどうしていきたいのか、何ができるのか。 「占ってけよ」  何をとは言わなかったが、それでも深地の気持ちは哲太に伝わっているようだった。しかし、さっきの発言もあって深地はじっとりとした目で哲太を見た。哲太は悪びれる様子もなく、顎をしゃくっている。深地は少し考えてから答えた。 「うん、やっぱり、今日はまだ、いいんだ」 「おい、もう二度とやらないとかいうなよな……」  哲太はわかりやすく機嫌が悪くなり、結局深地はご機嫌取りのためにお昼ご飯を奢ることになった。

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