まつりぬい
4 高町縫の意図

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 高町縫は教室のベランダから、校門を眺めていた。  先ほどまでは明坂まつりと橘周吾がなにかを話していたが、今は誰もいない。空虚となったその場をぼんやりと視界に映している。 「少なくとも片思い。もしかしたら両思いかなー」  両手を上げ、背筋を伸ばし、縫は教室へ入った。  自らの席に座り、まつりが来たときに急いで片付けたものを机に並べる。 「まつりちゃんと、橘くんをくっつけるのを手伝えば……初体験の話が聞けるかな?」  仲人になるには、橘周吾と仲を深める必要がある。まつりからの信頼もだ。  周吾に盗聴器を忍ばせることができれば、なおのことよい。  縫はにやにやと笑みを浮かべた。  妄想の時間もつかの間、教室に入ってきた人影に、縫は我に返った。 「ぬいぬいー」  呼ばれたあだ名に胸を撫でおろす。 「さきちゃん、びっくりさせないでよ」  縫をよく知る友人の奥村咲だった。咲は違うクラスだが、微塵の遠慮もなく縫の席へと近づいてくる。 「ぬいぬいさー、さっき明坂さんと話してなかった?」 「話してたよー。近くで見るとより美人だし、かわいかったよ」  咲が縫の席に広げられた紙に視線を落とす。 「……バレなかったの?」 「もちろん」  鼻高々にそう告げて、縫も自らの席に並べられた紙を見た。  そこには、両乳房をあらわにした女性のイラストが描かれていた。恥辱に紅潮したその顔は、デフォルメされているとはいえ、明坂まつりに酷似している。 「ほんと特徴とらえてるよねー」 「ありがと。てゆか、本人と話したら、すごくインスピレーション湧いてきたわ。ストーリー変える」 「どんな?」  咲の質問に、縫は低いうめき声のような笑い声を出した。 「数学教師に質問に行ったらいい雰囲気になるっていうシチュエーションから、好きな幼馴染の前で数学教師に犯されるっていうのに変えるのよ」 「うわあ……」 「これはネームから描き変えないと無理ね。あー、下校したくないのに時間が足りない!」 「そもそもなんで学校で描いてんの?」 「そのほうがインスピレーションが湧くからよ!」 「あ、そう」  咲があきれた声をあげたが、縫の耳には届かない。  最高傑作ができそうな予感に、今までにない高揚を感じている。   早く完成させたい気持ちと、長く味わっていたい気持ち。相反する感情に揺り動かされながら、嬉々としてイメージを形にしていく。  教室の時計を一瞥して、縫は友人が帰ったことにも気づかずに筆を走らせた。 《まつりぬい 了》

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