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 驚いたことに、ヒースクリフは鼻先の洋菓子の箱を手でそっと横にどけ、細い目を興奮に輝かせながら私を見た。こんな彼の表情を私は初めて見る。いつもの何を言っても気にもかけず、『止めてほしい』という小言を言うと、こずるくごまかしていた卑小な目など嘘のようだ。 「キャ、キャシー、み、見て。下絵が出来たんだ」  彼は私の手をつかむと部屋のなかに連れていった。そして、油紙で覆ったカンバスの前に連れていく。とても貴重なものを扱うように、そっと油紙を外した。傍らには油彩のパレットに生乾きの絵の具と筆がある。  私の嫌いだったはずのつんとした臭いが鼻を衝いた。  そこには、もう一人の私がいた。自分でその顔を見たことはなかったのに、覚えのあるその表情。  紛れもない私。  私はその心持ち斜め上を見上げた、希望に満ちた光から、目を離すことができなかった。

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