私にしかできないこと。
9.
翌日、私はまたヒースクリフに呼ばれて彼のアパートメントに行った。私の絵の続きが描きたい、今インスピレーションが湧いている、早く! こういうところは彼は勝手だ。私は食材を買って彼を訪れた。 初夏になり明るい日差しが彼の貧しいアパートメントの窓からもいっぱいに差し込んでいる。その光の中で、ヒースクリフは目を細め、口元を緩めて私を眺める。 やがてスケッチブックを出して、私に椅子に掛けるよう頼みこむ。私は言われたとおりにする。窓の方を向いて、遠くを見る目をして。彼の瞳には私の横顔が映っているはずだ。 彼のためにモデルをやっているが、私は本当はじっとしているのが苦手なのだ。せめて読書をしていてもよいかと尋ねたことがあったが、そのときは彼はそれを拒否した。「芸術」に関しては彼は頑固だ。そこが微笑ましくもあり、面倒でもあった。最近は面倒な部分のほうが多く出てくる。私は、本当にこの人でいいの。彼を愛してるの。ほだされているだけではないの。 そう、愛というより同情なのだ。私のヒースクリフへの想いは。
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