タイムリミット
第3章 新たな出会い2−2

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 連休明けの五月七日火曜日は保護者会開催のため部活はなかった。  六限目終了後、上条さゆりが下駄箱で靴を履き替えていると――。  やや遅れてやってきた美穂が斜向かいの下駄箱を空けた途端、中からメモ書きのような小さな紙が一枚ヒラリとさゆりの足元に落ちてきた。  慌てて美穂が拾い上げ、何事もなかったように制服の上着ポケットにしまい込む。  それはほんの数秒間の出来事だったが、さゆりはその文面をはっきり読み取れた。 西山五丁目のコンビニで待っています。 片山俊一  やや角ばった下手くそな鉛筆の字で、確かにそう書かれていた。  文面を反芻するうちに、心臓の鼓動が急速に早まってくるのがわかった。無意識のうちにその書き手の名前に反応してしまったのだ。  片山俊一はとなりの二年二組の生徒で、密かに憧れている相手だった。  一八○センチ近い長身のイケメンで、成績はトップクラス。運動神経も抜群で所属するバスケ部では二年生でただひとりレギュラーに名を連ねていた。父親は開業医で家柄も申し分ない。  中一の頃からずっと、自分とはまさにお似合いのカップルになれるのではと、密かに思い続けていた。  ただプライドの高さが邪魔をした。部活が同じバスケ部だったのだから、その気になれば二人だけの機会をつくるチャンスはいくらでもあったはずなのに、どうしても自分から先に動くことはできなかった。  校門を出た美穂は、西山公園に隣接した都営住宅の自宅とは全く違う方向に歩いていく。しかも急ぎ足だ。向かう先は片山俊一に指定されたコンビニに間違いない。  さゆりは気付かれぬよう、一定の間隔を保ってあとを付けた。  ほぼ十分後、さゆりの悪い予想は当たってしまう。  足取りも軽く入店した美穂がイートインコーナーに直行すると、そこにはすでに片山俊一が座っており、テーブルには二人分のコーラフロートも置いてある。俊一が気を利かせて先に買っておいたのだろう。  美穂が隣の席に座ると、二人はすぐに肩を寄せ合って何やら楽しそうに話し始める。  その様子は、さゆりの目には恋人同士としか映らなかった。  もし先にアタックしていれば、きっとあの席には自分が……嫉妬と後悔の入り混じった感情で、さゆりは胸が押しつぶされてしまいそうになった。 〈……あの日私たちがコンビニにいる間、前の歩道を五中の生徒が何人も通り過ぎていくのが見えた。きっと、その中に上条さんも……〉 〈なるほど、そう考えるのが一番自然だよね。とすると、もしかして上条さんは長友さんに嫉妬したのかな?〉  康太が重人の言い方をまねてそう分析すると、重人が訂正する。 〈『嫉妬』とはちょっと違うと思う。長友さんたち恋人ってわけじゃないんだから『勘違い』とか『思い込み』というべきだよ〉 〈いや確かに。おまえは本当、死んでからも冷静だな〉  康太がやっかみ半分にそう言うと、美穂の表情が曇ってくる。 〈どうしたんだよ?〉  康太が心配そうに声を掛ける。 〈……なら、なおさら本田さんが危ない。だって、私の場合は上条さんの『勘違い』が原因だったけれど、本田さんは……〉  美穂はそこで言い淀んでしまう。うまく説明できないようだ。 〈つまり本田さんには、お金を奪う犯罪現場を目撃されて、しかもチクられているので、上条さんは本田さんをより強く恨み、より酷い復讐をしてくるんじゃないかって、そう言いたいんだよね?〉  重人が助け舟を出すと、美穂が〈そういうこと〉と深く頷く。  時計の針は間もなく午後四時、いよいよ練習開始の時間だ。 〈もっと早くオレたちにこの話をしてくれれば良かったのに……〉  席を立ちながら、康太も残念そうに言う。 〈ごめんなさい。こんな身近にあなたたちがいたなんて知らなかったし……〉 〈過去は変えることができないし、その話はもういいや。それより前を向こう。どうやって本田さんを救えるかだ〉  康太はそう言い残して歩き始める。 「ねえ康太君、待ってよ。正門のところで、六時十分に待ち合わせしよう! 僕は、この件を長友さんからもっと詳しく聴いておくよ。今後、本田さんを助ける上で参考になるかもしれないしね」  重人がその背中に向かって、テレパスではなく、声を出して言う。後ろ向きの康太に確実に伝えるためだ。  康太は片手を上げて図書室を出て行く。それが了解の意味だと重人にはわかった。

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