タイムリミット
第1章 神様の手違い5−2

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 リビングルームにはジェニーと康太が残った。  ジェニーが優しげな眼差しを康太に向けてくる。 〈ワタシ、幽霊と話すのは初めてです。何度か幽霊を見かけましたけど、皆さん俯いたままで全く目を合わせてくれなかったので、気安く声を掛けられませんでした〉  ジェニーは身体を崩してフセの姿勢になり、リラックスした様子で話し続ける。 〈ですからワタシ、康太さんを見たときとても驚きました〉 〈何で?〉 〈あなたのような生き生きした幽霊を見たのは初めてなので〉  そこでジェニーは口をつぐんでしまうが、探りを入れるような目をこちらへ向けたままだ。康太はその目が何を言いたいのかすぐに感じ取った。きっと、初対面ということもあって、不躾な質問は遠慮したに違いない。 〈幽霊って、たいてい自殺した人なんだ。自殺って自分を殺した犯罪だから、すぐには天国へ行けないのでこの世を彷徨っているのさ。だから、暗くもなるよ。でもオレの場合は交通事故で死んだので、もうすぐ天国へ行ける。それで生き生きして見えるんだと思うよ〉  藪から棒に康太が、まさに自分が訊きたかったことを教えてくれたものだから、ジェニーは驚きのあまり言葉も出ない。 〈実はオレさあ、五年前オスのトイプードルを買ってもらって、毎日とても仲良く付き合ってたもんで、オマエの気持ちを読むぐらい朝飯前ってなもんなのさ〉  康太がおどけた感じで言うと、ようやくジェニーも合点がいったようだ。 〈そうなんですね……でも、まだわからないことが残っています〉 〈どんなこと?〉  説明し尽くしたつもりだった康太は、少しガッカリする。  今さら遅いけど、もっと身を入れて国語の勉強をして表現力を磨いておけばよかったとも思う。 〈自殺した人たちも、いつかは天国へ行けるのですか?〉  ジェニーは不安げな眼差しを向けてくる。  もし永遠に幽霊のままでいなければいけないのだとしたら、気の毒すぎる。きっとそう思っているのだろう。  ジェニーってとても優しい性格なんだな、と康太は感じる。 〈言い忘れていたか……。えーと、幽霊が【善行】つまり人助けをコツコツ続けていって、自殺の罪が帳消しになったと神様が認めてくれると、天国へ呼んでもらえるらしい〉  そう聞いて、ジェニーはさらに疑問が湧いたようだ。目に書いてある。 〈さてはオマエ、幽霊はどうすれば人助けができるんだろうって考えてるな?〉 〈はい〉 〈その答えは、オマエなら自分で見つけられると思うよ!〉  レトリバーという犬種は、盲導犬にもなるくらい利口なイヌが多いということは康太も知っていた。ジェニーも頭の回転は早いようだ。  あっという間に「ワン」と小声で誇らしげに吠える。 〈要するに、幽霊と会話ができるワタシたちイヌが‘手足’になるってことですよね?〉 〈そういうこと!〉  そこで康太はチラッと時計を確認して言う。 〈もう、あと五分ぐらいで管理人さんが戻ってくる時間だ。これでオマエの質問タイムは終わり。最後にオレからの頼みごとを一つ、いいかな?〉 〈はい。どうぞ何なりと〉 〈実はオマエに、ある自殺した幽霊が天国に行くための手助けをして欲しんだよ〉 〈なるほど、やはりそういうことだったのですね!〉  これまでのやり取りから、ジェニーは康太の頼みごとの察しはついていたようだ。  乗り気になってくれたことは、瞳の輝きから伝わってくる。 〈それで、その幽霊はどんな方なのですか?〉 〈その子はエリカって子で、オレと同じ中学二年。一学期の修了式の日に、イジメを苦にして自殺したけど、一日も早くお父さんが待っている天国に行きたいと願っている〉 〈了解です。ワタシ、そのかわいそうなエリカちゃんの天国行きに協力します! その間にワタシの新しい飼い主に出会えるかもしれませんし〉 〈ありがとう! きっと、困っている人を助ければ、オマエにも幸運が巡ってくるんじゃないかって、オレも思うよ〉  感激のあまり康太は思わず、抱きしめられるはずのないジェニーの頭を両手で強く抱きしめて頬ずりをするかのような格好になっていた。 〈それで、ワタシどうすれば?〉 〈これから管理人さんと散歩に行くとき、オレのあとをついてきてくれるだけでいいよ〉 〈でも、いったいどこへ行くのですか?〉 〈それは、これからのお楽しみ!〉  康太は笑って答えをはぐらかせる。  ちょうどそのとき玄関の扉が開き、柴崎さんが戻ってきた。普段着に着替えて帽子も被っている。 「ジェニーお待たせ。さあ、おまえの行きたいところに行こう!」

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