ダンス
ダンス

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 人見知りなうえに虹彩異色症──右目がブルー、左目がブラウン──であるわたしは、上京してずっと、ぼっちでいた。  給料日の夜、ふと思い立ち、イタリアンレストランに入ると、白塗りの、赤鼻をつけた定番のピエロが、カウンターでマリオネットを操っていた。  客はわたしのほかに一人もいなかった。マリオネットからメニューを受け取り、しばらく考えて、瓶ビールとパスタを注文した。ピエロは瓶ビールをカウンターに置くと、厨房に立ち、調理を始めた。  ビールを飲みながら、ちらちらとピエロを盗み見た。頬の輪郭、胸のふくらみ、腰まわりから、女性だとわかった。パスタを食べ終え、ビールを追加し、舌がなめらかになったわたしは、「女性のピエロなんて珍しいね」と言った。するとピエロはわたしをじっと見つめ、舌ったらずな口調で、「偏見を持たれがちな見た目のあなたでも偏見で人を見るのね」と言った。  わたしはおそらく、驚いた表情を浮かべていたと思うが、ピエロは頓着せず、わたしを凝視し続けていた。澄んだ瞳で。  まだ子どもなのだ。少女なのだ。はっきり臆せずものが言える時期なのだ。 「年はいくつなの?」 「十四」 「十四か……それくらいの年に戻りたいな」  わたしはため息をついて言った。 「戻って、どうするの?」 「……ダンスがしたい。わたしが育ったのは田舎で、学校にダンス部とかなかったから」 「それから?」 「さあ……そうね……永遠に、踊り続けていたいかな」  うつむいてそうこたえると、ドアが開いて団体客が入ってきた。わたしはメニューを持ってカウンターから飛び降り、団体客のテーブルに向かった。 「このマリオネット、左右の目の色が違うのね」  団体客の一人が言った。  少女の声がした。頭の上で。 「珍しいでしょう。最近手に入れたんです」  見上げると、コック姿の少女が客に笑顔を向けていた。ピエロのメイクはしていなかった。  わたしは少女の足元で、盛大に踊った。

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