我々はニンゲンである。
第二話 彼はマホウツカイである。-5

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「でもさ、墨玲さんに会ってどうするの?」 「別にどうもしないよ? 柊の好きな人がどんな人なのか、知りたいだけ」 「店のモニターに映ってたじゃん。超美人、って感じの人」 「見た目じゃなくて中身が知りたいの。何で柊があの人を好きなのか、知りたい。勝つためにはまず敵を知らなきゃ。でしょ?」  そういうもんかねぇ。他人事な気持ちで聞き流して、サクに引っ張られるまま歩く。  行き交う人たちは俺たちをカップルだと思ってるのかなぁ。見た目がそうなら、中身もそうだと思われる。たぶんそれが普通。 「さて、戦場に着いたね。僕どう? 変なとこない?」  NARUMOTOを前に、俺に身だしなみチェックを要求してくるサク。戦場ってまた大げさな、とも思うけど。それぐらいサクは本気なんだ。 「全然。かわいいよ」 「……もう! ミミナってば僕に甘いんだから!」  見たままを言ったのに。ぷいっと顔を背け、さっさと店に入るサク。  怒らせてしまったかな。少し不安に思いながらサクを追いかけ、中に入ったら。噂の超美人――墨玲さんが出迎えてくれた。 「いらっしゃいませ」  ぱつんと目の上ギリギリで切られた前髪が、ただでさえ切れ長な目をさらに鋭く見せる。するりと長い髪は黒というより墨色で、目元の紫と相まってスミレ感が強い。  自分の名前に愛着があるのか、NARUMOTOの看板としての出で立ちなのか、わからないけど。  息をのむほどの美しさを人間に、まして同性に感じるとは思わなかったな。モニターでちらっと見た印象通り、いやそれ以上に、超美人。  そりゃあ鳴本柊だって、血がつながってたって、この美しさには抗えない。  サクは何も答えない。俺と同じように圧倒されてるのか? 隣を見れば、凜とした横顔。戦う気だ。 「初めまして、墨玲さん。柊には――弟さんには、いつもお世話になってます」  にっこり微笑んでみせるサク。その笑顔も武器なんだろうか。墨玲さんの反応をうかがう。クールな見た目に似合う、クールな微笑。 「弟のご友人でしたか。こちらこそ、弟がお世話になっています」 「友人っていうか、恋人っていうか? 関係に名前をつけるのって難しいですね?」  バチバチやり合ってるとこ申し訳ないんだけど、俺、居場所ないなぁ。スーッと気配を消して陳列された商品を手に取る。  どれもこれも、墨玲さんに似合いそうなかっこいい服ばかり。墨玲さんがNARUMOTOに愛されてるのか、NARUMOTOに墨玲さんが合わせているのか。 「ラッキー、鳴本墨玲いる!」 「実物見るの初めて」 「握手してもらおうよー」  どさどさ、他校の子たちが店内に入ってきた。墨玲さんって有名人なんだな。俺は知らなかったけど、NARUMOTOの専属モデルらしいし。雑誌にも広告とか出てたりするのかな――。  目が合った。時間が一瞬、止まったような気がした。他校の子の一人が、元友達だった。  ――友達、だった? そもそも俺たち、友達だったのかな。 「ごめんサク、急用、帰るね」  ちゃんと日本語になってるのか定かじゃない。だけど一応言うだけ言って、一人で店から出た。  走り出したい気持ちに駆られるけど、なんかそれって逃げてるみたいで。嫌で、嫌なのに、足が勝手に走り出す。 「ミミナ! 待ってよ!」

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