ゴールデンウィークが嬉しいのは初めだけで、終わりが近づいてくるとこのままずっと休みたい気持ちになるから厄介だ。 学校に行けばどうせ浮くだけなのに、きちんと準備して学校へ向かう俺は本当に真面目だ。休みだしたらキリがないから気合を入れるしかない。 恋って魔法なんだよ――あの人の言葉が、脳内にこびりついて消えなかった。魔法にかかったことがない俺には、わからない感覚だけど。 「瀬戸見さん、おはよう」 教室に入ってすぐ、クラスの子に話しかけられた。珍しいことすぎて咄嗟に声が出ない。ていうかこの子、アイツの木曜の女だ。 「こないだ見たよね? あたしが、鳴本先輩んとこ行くの」 返事ができないうちに話を押し進めてくる。なるもと……アイツの苗字か。知らないし、興味もないけど。 「瀬戸見さんもああいうの興味あったんだ? ズボン穿いてるから、てっきり男になりたいのかと思ってた」 一人で言葉を並べて楽しいのかな。アイツのことは興味ないし、ああいうの、ハッキリ言って軽蔑する。そう言えたらいいのに何も言えない。俺はただ木曜の女を見返すだけ。なんて弱い。 「鳴本先輩、男でも相手してくれるんだって。こないだ瀬戸見さんと一緒にいた人? あの人も相手してもらってるらしいし、瀬戸見さんも」 「ミミナ!」 殴りかかりたい気持ちだった。黙らないその口を、無理やり塞いでやりたかった。 だけどその声が、独特なあだ名が、俺と木曜の間に入ってきたから。まるで神様の救済みたいに。 「ちょっと来て、大事な話あるから」 ピンクの妖精が、意外とつり目なのだということに今気づいた。怒っているのか何なのか、キッと木曜を睨んでから俺の手を引く。 どこへ連れてかれるのか、なんて、もうどこでもいいけど。 「何で何も言い返さないの? 言われっぱなしで!」 階段を上って踊り場。振り向いたサクが睨んでくる。そんなこと言われても、ていうか、そもそも。 「何しに来たんですか。俺のクラスまで、わざわざ」 パッと俺から手を離し、慌て始めるサク。一年だとは言ったけど何組かまでは言ってない。もしかしてと思い、じとーっと見つめる。 「だって友達だし! 靴箱でミミナの名前探せばクラスわかるかなって――だったら、ミミナを見つけて後つけたほうが早いかなって!」 「それってストーカーじゃん」 「そうだよ、悪い!?」 なんか、ムカつくくらい憎めない人だな。友達なんて、そんなの始まる前に終わったようなものなのに。そもそも連絡先も知らなくて何が友達だよ、とか、思うけど。 この人の言葉はちゃんと胸に入ってくる。どころか、連休中もこびりついて消えてくれなかった。何でかな。友達、だから? 「で。サク、俺に何か用? そうでもなきゃ、わざわざ後つけたりしないでしょ」 「……約束、しようと思って」 「昼休みならもう行かないよ。ああいうのは一人でして」 「うん、だから、放課後。ミミナと一緒に行きたいところがあるの」 放課後に友達と待ち合わせなんて久しぶりで、自分でも浮き足立っているのがわかる。早く今日が終わらないかな、なんて、子どもみたいにそわそわして。 約束ってこんなに嬉しいものだったんだ。すっかり忘れてた。 「ミミナ!」 「……早いね」 約束通り昇降口へ向かうと、俺の靴箱のそばにピンクの妖精――サクがいた。 サクはいるだけで目立つようで、男子も女子もサクを見るだけ見てから去っていく。俺は知らなかったけどサクってもしかして有名人? 「放課後に寄り道とかワクワクしちゃって! 友達って感じだよねぇ」 サクも同じ気持ちみたいで安心する。よかった、俺の一方通行じゃない。俺だけが浮かれてるわけじゃない。
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