我々はニンゲンである。
第七話 初めてのコクハクである。-1

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 水曜、朝。いつも通り学校に着いて靴を履き替えようとしたら、上履きに何か載っかっていた。何この紙切れ、嫌がらせか? 『昼休みに例の空き教室で待ってます。モブより』  モブ――だいぶ前に流行ったフラッシュモブとかのモブ? いや普通に名を名乗れよ。誰だか知らない人に呼び出されても、行かなきゃいけないのかなぁ。  昨日、墨玲さんの婚約話を聞いたばかりだし。柊にも一応、報告しなきゃなんだけど。  ……このモブとかいう人、柊ってことはないよね? まあ、柊なら普通にメッセージ送りつけてくるから違うか。 「瀬戸見さん、おはよ」 「おはよー」  慌てて紙切れをスカートのポケットにしまいながら、挨拶を返す。木曜の女――もとい、木村さん。  友達というほど親しくはないけど、普通にクラスメートだし。柊とはもう会ってないらしいから木曜の女でもないし。  いくら心の中とはいえ失礼だったよね、と少しは反省してる。 「え、どうしたの?」  靴箱の前で靴も履き替えずにぼーっとしてるから、いよいよオカシイと思われたんだろう。へらっと笑顔を作ってそそくさ靴を履き替え、「何でもないよー」と言いながら木村さんの隣に並ぶ。  ポケットの中の紙切れが気になるけど、できるだけ意識しないようにして階段を上る。  購買に寄ってから行ったらモブさんに怒られるかな。でも、パン売り切れたら困るし――まあいいや。昼休みのことは、昼休みに考えよう。 「モブってミ……瀬戸見さんだったの」  昼休み。購買でパンを買ってから空き教室に来たら、なぜかサクがいた。  ミミナって呼びかけたくせに訂正されて若干へこむ。いいけど。いいけど、別に。 「違うよ、俺だってモブさんに呼び出されたんだよ」  証拠としてポケットに入れっぱなしだった紙切れを掲げる。ていうかモブさんは? 遅くなったから怒られると思ってたけど、いないとかひどくない? 「え、その格好で俺とか言っちゃうんだ」 「仕方ないじゃん、俺に慣れちゃったんだから。そもそも一人称なんて個人の自由だし? 某でも吾輩でも」 「そっ、某がモブである!」  サクと二人きりだと思ってたから、いきなりサクの向こうに人が現れて驚く。え、手品か何か? ――いや、普通に教卓の下から飛び出てきたパターンか。  拳を突き上げ、そのポーズのまま止まっているモブさんを、サクが静かに振り返る。  何だろう、このシュールな絵面は。そろそろと拳を下ろし、わざとらしく咳払いするモブさん。 「本日はお集まりいただきありがとうございます。今回はどうしてもお二人にお話したいことがあり、こういった形でお呼び立ていたしました」 「僕のファンか何か? 握手とかサインだったらいいけど、写真はNGだよ」 「ノー! 某はサク様のファンではなく、柊サクのファンなのであります!」  しゅうさく? 誰それ。しゅうさく……柊とサクか! 「昨年の文化祭は豊作でした。描いても描いても筆が止まらず、一人一作までしか出せないのに延々と描き続け、某にとって柊サクはミューズのような存在で」  目を爛々と輝かせ、謎の演説をぶちかましてくるモブさん。  去年から柊とサクを知ってるってことは、少なくとも先輩だな。描くとか筆とか言ってるし、美術部かな。 「でも、あなたのせいで何も描けなくなりました。瀬戸見未那さん、あなたのせいで」  いきなり名指しされ、どころか指までさされ、思わず肩が跳ね上がる。柊サクのファンなら俺じゃなく柊を呼べばいいと思ったけど、え? 何で俺、責められてるの?

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