洛陽の月
ちぐはぐ

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 大塚形成外科から戻った権丈は、慣れない松葉杖に掴まりながら洛陽高校サッカー部の専用グラウンドに足を向けた。  定期考査明けのその日に他校との練習試合を組んだのは、大葉監督なりの親心だったのかもしれない、と権丈は思った。  インターハイ予選の初戦で負けてからチームの士気は下がる一方だった。そんな最中に試合にはおろか、半年近くもリハビリ生活を送るであろう主将など不要の長物に思えて仕方がなかった。  大葉監督には定期考査後に病院に行くと事前に伝えてあったので、今日の練習試合に出場できるとは思ってもいなかったが、医師から告げられた診断結果は自身の想像を遥かに超えていた。   打撲ぐらいだと甘く見過ぎてはいけないよ、と大塚医師から最後に忠告めいたアドバイスを貰ったが、それも今さらな助言であるとしか思えなかった。  松葉杖をついた不甲斐ない主将がのこのこチームに戻ったところで、よけいに士気を下げるだけだ。しばらくスタンドから観戦することにした。  部員の皆がベンチ脇に集まって応援する中、防球ネット越しのスタンドから観戦した試合は、どこか自分の知らないチームのように思えて仕方がなかった。全員の顔と名前を知っているはずなのに、見たことも聞いたこともない新興チームのように思える。  隣席に松葉杖を立て掛けた権丈は、キャプテンマークを腕に巻き、吠えるように声を嗄らしてなんとかチームを盛り上げようとしている兵藤の心中をおもんばかった。  権丈が弱音を吐いたら、きっと兵藤は激怒するだろうけれど、いっそのこと、このまま兵藤に主将を務めてもらった方がチームのためではないか、とさえ思う。  司令塔の平岡の抜けた中盤の動きはぎこちなく、間延びした空間スペースを度々突破されてはゴールを脅かされる。  ディフェンス陣は大差をつけられた試合に集中力を欠いている。ひたすらシュートの雨を降らされ、ボールがネットを揺らすたび、権丈は思わず歯噛みした。  ワントップのセンターフォワードとして先発した黒田はボールを呼びこもうと必死に動き回っていたが、リズムの悪い中盤からなかなかボールが入らず前線で孤立している。  攻撃のカンフル剤として期待の持てる東条圭はベンチに氷漬けにされたかのように座り続けており、試合終了の笛が鳴るまでそこを動くことはなかった。  何もかもがちぐはぐだった。  いくら試合の相手が県下でも有数の強豪校だとはいえ、〇対八というスコアは屈辱以外の何ものでもなかった。  苦境にあるチームを何ひとつ手助けできやしない役立たずの主将などは、選手権に出るなどという高望みは捨てて、さっさと引退すべきなのだろうか。  気分が荒んできたので空を見上げると、大文字山の彼方に見える灰色の空が分厚く垂れこめていた。京都の空はなぜこんなにも灰色で、頭がつかえそうなほど低いのだろうか。  今にも降りだしてきそうなぐずついた空を見上げても、心はちっとも晴れやしなかった。

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