洛陽の月
最後のロッカールーム

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 権丈は大泣きする東条圭の肩を抱き、ロッカールームに辿り着くまで一切離れることなく付き添った。それが不甲斐ない主将としてのせめてもの務めだと思ったからだ。 「悔しいけど顔を上げよう、圭」  涙こそ流してはいなかったが、権丈の声も心なしか震えていた。 「圭の分は志木君が止めてくれた。四人蹴り終えた時点で三対三のスコアだったから、今日負けたのは圭のせいじゃない。全部、最後に外した俺のせいだ」  叫びにも似た泣き声がロッカールームを覆い尽くす中、権丈は圭の肩を抱きながら、毅然とした表情を崩さず、揺るぎない瞳で床の一点を見つめている。  しばらくして、ロッカールームを覆っていた嗚咽が鳴りを潜めた。  大葉監督が権丈と圭を取り囲む部員たちに無言で合図を送る。兵藤が権丈にそっと近づき、その手に触れた。圭の肩にかけていた手を離した権丈の代わりに、兵藤がしゃくり上げるように泣き続ける圭の華奢な肩を抱いた。  権丈と大葉監督を残して、部員たちは示し合わせたようにロッカールームを後にした。 「もう堪えなくて大丈夫ですよ。ここには私しかいませんから」  大葉の落ち着いた声を聞いて、堪えていた涙が堰を切ったように溢れた。目の下をいくら拭っても無駄だった。涙が止めどなく溢れて止まらなかった。  大葉は泣き崩れた権丈の肩を優しく抱くと、激闘の爪痕の残る汗と涙で濡れた床を見つめながら訥々と言葉を紡いだ。 「よく頑張ったね。よく頑張った。ご苦労さん」  大葉は閉じられたロッカールームの扉を見つめながら、権丈の方を見ずに呟く。 「何年か先、君が日の丸を胸につけてプレーするようなことがあれば、テレビを見ながら、こいつ選手権で二回もPKを外したのに、日の丸つけてるぞって笑って言えるようにね」  権丈の肩の震えが微かに収まった。泣き腫らした顔がわずかだがほころんだ。 「さあ胸を張って帰ろう、権丈君。皆が待っているよ」  大葉がロッカールームの扉をゆっくりと開ける。  扉の隙間から温もりのある一条の淡い光が白く濁った床の上へと差し込んできた。  立ち止まるな。月まで走れ、とそう言われたような気がした。

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