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「君の新作は『蝶々』という名前がついていたね。過去から解放されて蝶のように舞うがごとく、さ」 「え? ぼくの『蝶々』は小説の舞踏会の場面を描写しているつもりなんだが」 「ああそうだったね。ただ、蝶は完全変態メタモルフォーゼするだろう。君に新作のことを聞いてからというものの、さなぎから蝶になりひらひらと舞う様が浮かぶんだ」 「忙しい君の邪魔になっていなければいいが」 「いいや、全く問題ないよ。君のこれまでをさなぎの時代と考えて、今回の不幸な出来事は脱皮の苦しみととらえ、その後は蝶になって自由に飛び回れ」  普段はおとなしいモーリッツの力のこもった言葉に、ロベルトは胸を熱くした。 「わかった。気持ちの整理ができたら、一日一日ぼくができることを精一杯やるよ」  ロベルトの一番の助けになったのは、やはり作曲だった。作品2「蝶々」の楽譜を仕上げ、続く作品3を新たな出版社から出すことになった。  日々の糧のごとく、作曲の学びのためにバッハの楽譜を丹念に調べた。また、街を訪れる名の知れた音楽家の演奏会に出かけては評論を書き発表した。仕事に没頭できるようになるにつれ、ロベルトの表情に明るさが戻った。

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