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◇  ピアノから遠ざかって十日ほどすると、指の痛みは和らいできた。違和感は残っているものの回復のきざしと喜んだロベルトは、モーリッツに教えてもらった医者を順番にあたった。近隣の街から遠方まで六人の医師にみてもらった。一様に治る見込みはあると言いうが、ピアニストとしては難しいと首を横にふるばかり。改善するとは、流麗に指が鍵盤を舞うことを想定する医師はいない。  実家の母にロベルトが相談すると欧州の方々に散っている親戚からも、知っている限りの療法を手紙で知らせてきた。あの薬この薬、少しでも望みがあれば試してみた。結果、薬瓶が部屋の一角にずらっと並ぶこととなった。  半ばやけになってあらゆる種類の治療を試した。疾患の手を動物の内臓につっこむとか、鉱石の粉を小麦粉に混ぜた湿布を貼るなど医師のモーリッツの理解を超える療法もあった。  何かをしないと落ち着かない状態に陥ったロベルトは、最後に電気療法にたどりつく。気力をふりしぼって郵便馬車を乗り継いでまで出かけた結果、指の状態をさらに悪くしてしまった。

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