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京都府に、「実家が筍山を持っている」という知人がいて、毎年、筍を送ってくれます。 知人といっても、私の知人ではありません。 弟の、しかもまさかの幼稚園時代の知人です。 人見知りで、寄らば斬るみたいな雰囲気を漂わせていた幼い日の私と違い、弟はたいへん天真爛漫で愛嬌があり、ついでになかなか可愛かったので、大人の女性たちに人気がありました。 当時、幼稚園の新米先生だったその方も、そんな弟の熱狂的なファンのひとりで、その縁で、今も弟の実家である我が家に筍をくれるのです。弟、しみじみすごいなー。 「朝掘り筍」というラベルがついた当日便で送られてくる箱を開けると、青々した笹の葉に守られた、まだ土付きの筍たちがゴロゴロと出てきます。 大きいもの、小さいもの、掘り損じて途中で折れてしまったもの、ちょっとだけ伸びてしまったものなど、いただく筍の姿はバラエティに飛んでいますが、食感に変化がついて面白いし、どれも見事に美味しいのです。 土の匂いと筍の匂いを嗅ぎながら、私は特大のゴミ袋を二重にして広げ、筍の分厚くて硬い皮をむしり始めます。 そう、いきなりむしるのです。 筍の下ごしらえといえば、皮に切り目を入れ、米ぬかを入れたお湯で丸茹でに……というのが定番だと思います。 でも、その方にいただく筍は、そんな大層なことをしなくても、最初から皮を剥き、大きめに切り分けて、ただの水に放り込んで火にかけるだけで、ちゃんとあくが抜けてくれて、とても助かります。 大量のタケノコの皮をゴミ袋に詰め、シンクを綺麗にしているうちに、お鍋の湯はグラグラと沸き、台所じゅうに筍の香ばしい匂いが立ちこめます。 ああ、これが私にとっての春の匂い。大好きな匂いです。 1回だけ茹でこぼして、竹串がスッと通るまで茹でたら、あとはそのまま鍋に蓋をして冷まします。これで、下ごしらえは完了! もうカットしてあるので、そのまんま料理を始められます。 筍といえば、皆さんはどんな料理を召し上がりますか? 筍ご飯? 若竹煮? 天ぷら? 木の芽和えもいいですね。 そのあたりは勿論ひととおり作るのですが、私がいつも必ず作る筍料理はふたつ。 まず1つ目は、若竹煮の発展形です。 美味しいお出汁に、濃い目のお吸い物くらいの味をつけて、そこでまず、前夜のうちに筍を煮ておきます。 時間と共に、筍の中にあっさりした煮汁の味が染み込んで、とても美味しくなるのです。 そして、食べる前に、さわらをひとり1切れずつ。煮えたら、仕上げにワカメをさっと加えて一煮立ちさせ、煮汁たっぷりに盛りつけて、仕上げに山椒の葉を数枚。 パチンと手のひらで叩き、香りを立ててからあしらいます。 若竹煮だけではちょっとボリュームが……というとき、さわらがあれば、立派な主菜として成立するので、おすすめです。 何しろ、さわらは漢字で書くと「さかなへんに春」、筍と新物ワカメと筍の取り合わせは、まさに「ザ・春」の1皿。 季節を満喫するのにはもってこいです。 でもこの料理、さっぱりして美味しいのに、どうも父には不評なのです。 「これもええけど……あっちのほうが、なあ」 必ずそう言われてしまい、「嫌やったら食べんでええで!」と、私がぶんむくれる。 それもまた、我が家の春の風物詩のようなやり取りです。 父に「あっちのほうが」と言われるのが、2つ目の料理。 父の実家に代々……かどうかはわかりませんが、とにかく何代かは伝えられてきたらしき伝統の味、「筍の味噌炊き」です。 もうこれ、今どきのラノベのように、タイトルですべてが伝わる感じの料理です。 お好みの味噌で、やや濃すぎる味噌汁くらいの煮汁をたっぷり用意します。味噌汁と違うのは、砂糖を入れること。 ちょっと甘めかな~、くらいに仕立てておくと、驚くほどのコクが出ます。 そこに投入するのは、勿論主役のたけのこ、こんにゃく(手綱がおすすめ)、さっと湯がいて皮を剥いた蕗、そして、忘れちゃいけない、豚肉の薄切り。 これをぐつぐつと煮るだけで完成する、簡単で素朴な料理です。 せっかく鮮やかな黄緑色だった蕗も、煮上がりにはしっかり茶色いおかずの仲間入り。 淡泊な野菜たちを、豚肉のこっくりした脂が力強くサポートして、味噌がすべてを豊かな味にまとめてくれます。 お肉は避けたいな……という場合でも、何かしら油分を足してくれるものを入れてほしいところです。 厚揚げとか、薄揚げとか、そのあたりがやはり定番でしょうか。 私は実は蕗が苦手なので、下茹でした大根を入れたりしています。 ちょっとおでんっぽくなりますが、ゆで卵なんかも間違いない具材です。 たいていのものは、味噌が何とかしてくれる。そういうことです。 何にせよ、煮込み初日は、まだ味が浅いので、素材本来の味を楽しんで。 2日目は、濃くなった味噌の味でご飯が進みます。 具材を足しながら、煮返しながら食べていくうち、煮汁がドロドロになってきて、それをバラバラになった食材のかけらたちと共に、炊きたてごはんにどばーっとかけて、ワシワシすすり込む。 あるいは、卵かけご飯の上から、醤油の代わりに味噌味の煮汁で塩気を足す。 ちょっとお行儀は悪いかもしれませんが、これもまた、楽しみのひとつです。 筍、たくさんいただいたけど、どうやって食べようかしら……なんて迷われるときは、是非、味噌炊きをお試しくださいね。

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