漢字徒然
「海」 プロローグ

小説を栞をはさむには、
ログイン または 会員登録 をする必要があります。

「久しぶりね。こんなところに来るのは」 「そうだな……」  ため息みたいな問答を一往復しただけで、黙りこくってしまう。それが私たち二人のいまの関係。交際三年目にもなるのに、彼は恋人から先に進もうとしない。  ここは他ならぬ彼から、身悶えするほど恥ずかしい言葉を紡がれて告白された場所。だけど、彼はそれに気づくそぶりを見せない。私が三年目の記念日に、貴方をここに連れてきた意味も、多分わかってない。  恋人になってから、何度もこの浜辺には足を運んだ。観光地でもなんでもない浜辺だけど、私にとっては天橋立にも勝る名所になった。でも、それも今日で終わり。 「ねえ。海って、波が寄せては返すよね」 「そうだな。なかなか風情があっていい」 「始まりと……終わりの場所にふさわしいよね。勢いよく寄せて、舞い上がって、終わりはあっけなく気持ちが冷めていく」  別れ話とわかっても、彼はこちらを向かなかった。  私が記念日にここに連れてきた意味。わかってないんじゃなくて、わかりすぎていたのかもしれない。彼も、きっと波が沖に引いていくのを感じていたのだ。 「さよなら。これからも幸せにね」  含みを持たせた言葉に、やっと彼は動揺してみせた。

応援コメント
0 / 500

コメントはまだありません