豚だった男
第1ブー 衝撃の事実

「中島さん、落ち着いて聞いてください」  その言葉を聞いて、中島哲也は心臓が止まりそうになった。  医者から「落ち着いて聞いてください」と言われて驚かない人間など、この世にいないだろう。 「ぼ、僕は何かの病気なんですか?」  そう言いながら中島は、思いつく限りの病名を頭の中に巡らせた。  ガンか?原因不明の難病か?それとも、この前テレビでやってた寄生虫による病気か?  だが、医者から出てきた言葉は、中島の想像のはるか斜め上を行くものだった。 「中島さん、あなたは、豚です」  医者は、神妙な面持ちで言った。 「は?」  中島は、わけが分からなくなって、ポカーンとしてしまった。十数秒の思考停止の後、中島はようやく口を開いて、 「先生、それは一体、どういうことなんですか?」  と、きいた。 「ですから、あなたは豚なんです」 「何を言ってるんですか?悪口ですか?」 「いえ、悪口でも冗談でもなくて、本当に豚なんです。遺伝子の話です。あなたのDNAが、豚のDNAと完全に一致したんです。生物学的には、あなたは人間ではなく豚なんです」  医者の表情は真剣だ。中島は、その表情から、これが何かの悪ふざけなどではないことを理解した。  しかし、自分が豚であるということは、まだ理解できない。 「検査ミスとかじゃないんですか?いくらなんでも、僕が豚だなんて信じられないです。ほら、僕は二足歩行だし、言葉も喋るし……」  中島がそう言うと、医者は首を横に振り、 「それは、突然変異です。突然変異によって、見た目などが人間そっくりになってるだけであって、あなたの本質は豚なのです。例えば、無意識のうちに、ブーブーとかブヒッと言ってしまったりすることはありませんか?」  と言った。 「そんなこと、あるわけないじゃないですか!」  中島は、思わず声を荒らげてしまった。 「では、試してみましょう」  医者はそう言うと、デスクの引き出しから、一本のボールペンと一枚の紙を取り出した。 「このペンで、何か文字を書いてみてください」 「何言ってるんですか?これくらいできますよ。何年、字を書いてきたと思ってるんですか?」  そう言いながら、中島はボールペンを握った。すると…… 「ブヒーーー!!!」  ボールペンから強烈な電流が流れて、中島は叫びながら倒れ込んでしまった。 「何するんですか!ひどい!」 「手荒なことをして、すみません。ですが、今の叫び声で分かったでしょう。あなたは本当は豚なんです」 「叫び声……あ……」  中島は、さっき自分がブヒーと叫んでしまったことに気づき、信じられない気持ちになった。 「けど、今のは、たまたま……」 「いえ、たまたまなんかじゃありません。では、これはどうでしょう?」  医者は、別室から、一本のトウモロコシを持ってきた。そのトウモロコシを見た途端、中島の喉から大量の唾液が出てきた。 「これは、豚の餌によく使われているトウモロコシです。あなたは今、このトウモロコシを食べたくて食べたくて仕方がないはずです」 「たしかに……。俺は今、このトウモロコシのことで頭がいっぱいだ。俺は……本当に本当に、人間じゃなくて、豚なんですか?」  中島は、涙を流しながら医者に言った。口元は、既によだれぐちょぐちょになっている。 「残念ながら……そういうことです。トウモロコシ、食べますか?」  医者にそう言われると、中島は、返事もせずに、トウモロコシにかぶりついた。  トウモロコシを食べ切った後、中島は大声をあげて泣いた。ブヒブヒと叫びながら、ひたすらに泣いた。

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