豚だった男
第2ブー 就職

「中島哲也だブヒ!皆さんのお役に立てるよう一生懸命頑張るブヒ!よろしくお願いしますブヒ!」  豚だと宣告されてから1年が経った。  中島は、とある会社のオフィスにいた。新社会人として、今日から、ここで働くことになったのだ。  医者には、人間のフリをするのをやめて、ペットとして、人間に飼われて生きるべきだ、と言われていた。  しかし、中島は、ペットになるという生き方を受け入れることができず、医者の助言を無視して、就職活動を始めたのだった。 「新入社員のみんな、よろしくね!あ、けど、中島くん、冗談で語尾にブヒって付けるのは、たしかに面白いんだけど、くれぐれも取引先の人とかの前では言わないようにね!」  先輩社員にそう言われ、中島は、ハッとした。無意識のうちに、ブヒッと言ってしまっていたのだ。  それから中島は、うっかりブヒッとかブーブーと言ってしまわないように、細心の注意を払って、仕事に取り組んだ。我慢できないと思った時は、トイレに駆け込んで、そこでブーブーと鳴くようにした。  その努力のおかげで、中島は、上司から高い評価を受けるようになり、みんなから信頼されるようになった。  しかし、1ヶ月後に行われた新入社員の歓迎会で、事件は起こってしまう。  その歓迎会は、会社の近くの居酒屋で行われた。 「中島くんは、お酒、何飲む?」 「あ、僕は、ウーロン茶で。僕、お酒弱いんで」  酔ってしまうと、うっかりブーブーとかブヒブヒと言ってしまう可能性がある。中島は、その可能性を恐れて、お酒を頼まなかった。  注文を終えると、上司たちが、会社で流れている噂について話し始めた。 「ねぇ、男性トイレにお化けがいる、って話、本当なのかな?」 「まさかー、いないでしょ!」 「けど、鳴き声を聞いた人がいるんだよ。ブーブーって鳴いてたんだって!」 「うーん、たしかにねー。トイレから豚の鳴き声が聞こえてくるなんて、有り得ないもんねー」 「だから、きっといるんだよ!豚のお化けが!」  その会話を聞いて、中島は、ドキッとした。自分がトイレで鳴いているのを、誰かに聞かれてしまっていたようだ。  しばらく経って、中島の元にウーロン茶が届いた。みんなで乾杯をしてから、中島は、そのウーロン茶をガブっと一気飲みした。お酒じゃないから大丈夫だろう、と思っていた。  しかし、飲み終えた途端、中島の意識が、突然、朦朧としてきた。何かを考える余裕がなくなってきたのだ。 「あれ?これ、ウーロンハイじゃない。ウーロン茶だ。誰か間違えてない?」  そう言ったのは、となりのテーブルの席に座っている上司。中島は、ハッとした。  なんてことだ!まさか僕が飲んだのは、ウーロンハイ……  中島は、もう限界だった。意識を保つ気力も失い、ついに発狂した。 「ブヒーーー!!!」  中島は、そう叫ぶと、四足歩行の状態になって、駆け出した。  居酒屋のあちこちを駆け回り、テーブルの上にある料理にかぶりついた。客たちは、悲鳴を上げた。 「中島くん、やめてー!」 「中島くん、どうしたのー!?」  上司や同僚が叫んでも、中島には聞こえない。  中島は、それから1時間ほど暴れ続けた。    

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街の修理屋 2020/07/24 12:53

いいですね。読んでいてすごく楽しいです。

管絃 2020/07/20 13:39

めっちゃ楽しみにしてた2話目も読んでてワクワクドキドキしました!ありがとうございます!3話目も楽しみにしています!